「お着替え、用意しておきますので」

「ありがとうございます。後は俺やりますんで…」


お手伝いさんに軽く頭を下げ、翔真さんを抱いたままシャワールームに入った。


「自分で出来るから…」


そう言った翔真さんを無視して、俺は翔真さんの濡れたズボンと下着をずり下げると、そこに少し熱めのシャワーをかけた。


恥ずかしさや気まずさなんて、俺にはなかった。


ただこんな姿の翔真さんを見ているが、辛かった。




「よし、これでさっぱりしたでしょ?」


バスタオルで濡れた足を拭き、ベッドの上に用意してあった下着とズボンを着せ付けると、俺は翔真さんをベッドに横たえた。


「…すまない。お前にこんなこと…」


翔真さんが申し訳なさそうに、瞼を伏せる。


「もう、さっきからそればっかですよ? 謝んなくていいですから。それよりさ、ちょっと疲れたでしょ?」


きっと相当なショックを受けたんだろうね、翔真さんの顔はまるで色を失くしていて…


「俺、翔真さんが眠るまでここにいますから、ちょっと休んで下さい」


少しでも不安を取り除いてやりたくて、その髪をそっと撫でながら言う。


すると、次第に翔真さんの瞼がどんどん下がって行き、そして聞こえてきた規則的な寝息…



今は…、今だけはゆっくり眠って欲しい。

そして目が覚めた時、この現実を忘れていて欲しい…



俺はそう願いながら、力なく投げ出された翔真さんの手を握った。



冷えた指先に、少しでも俺の体温を分けて上げたくて…

俺が付いてるからって、安心させて上げたくて…




「翔真さん寝た?」


ノックも無しに開いた扉の隙間から、二木が顔を出す。


「ああ、今さっきね」

「そっか…。それにしても驚いたよね…」


声を潜め、なるべく足音を立てないように、ゆっくりと二木が近づいてくる。


「確かにね…。俺もまさかと思ったよ…」



でもこれが現実で、始まりなんだ…



「あのさ、下の様子は? 翔真さんのご両親はどうしてる?」


あの様子だと、翔真さんのお母さんは、相当ショックを受けてる筈だ。


「まあ、おばさんはずっと泣いてるよ…」



そりゃそうだろうな…

ずっとエリート路線まっしぐらだった息子の、あんな姿見たら、平気でいられないよな…



「でもおじさんはかなり疑ってる…と思う…」

「疑う? って何を…?」

「だからさ、翔真さん会社も辞めちゃったじゃない? 当然金も無いわけよ。だからさ、俺らを使って、それこそ金の無心に来たんじゃないか、ってさ…」

「…っだよ、それ…」



いくらなんだってそんなの酷すぎる…



俺は怒りが押さえられず、翔真さんの指に絡めた自分の指を解くと、勢い良く立ち上がった。


「悪いけど、ちょっと翔真さん見ててくんない? 俺、話してくるから…」



で、翔真さんの病気のこと、ちゃんと理解して貰うんだ。

コレは嘘や芝居なんかじゃない、現実なんだってこと、分かって貰うんだ。



翔真さんのことはニノに任せて、俺は階下へと降りた。


「あの…、坊ちゃんは…」


丁度階段を降り切った所で、待ち構えたようにお手伝いさんが俺に向かって駆け寄ってきた。


「今眠ってます。あの…、翔真さんのご両親は…」


俺の言葉に少しだけ安心したのか、お手伝いさんが”どうぞ”と言って先を歩き出した。

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