俺は何を言いたかったんだろう…


「コーヒー? それともコーラ? どっちでもいいですよ?」


自販機に小銭を入れながら、男が振り返る。


「じゃ、じゃあ、コーラ、で…」


男がOK、と小さく言って、自販機のボタンを押すと、ガラガラ音を立てながらペットボトルが落ちてくる。


「はい、どうぞ?」

「あ、ありがとう…ございます」


差し出されたペットボトルを受け取る。


「そこ、座ります?」


壁際に置かれたベンチを親指で指し、また俺の手を引く。


ベンチに並んで座り、ペットボトルのキャップを捻ると、プシュッと音を立てて、甘さとほんの少しの酸味を含んだ匂いが、鼻をツンとさせた。


両手で握ったペットボトルに口を付け、ゆっくり傾ける。


途端に口の中に広がる刺激に、思わず身震いをしてしまう。


でも、それと同時に、頭の中がスッと冴えて行くような、不思議な感覚がした。


「火傷、大したことなさそうで良かったですね?」


俺の指に残る赤く腫れた痣…

その痣がいつ出来たものなのか、俺にその記憶は、ない…。


暫くすると、廊下の向こうから、一人の男がこちらに向かって歩いてきた。


あれは…、雅…也?


「お待たせ…」


そう言った雅也の顔は、すっかり色をなくしていて…


心なしか目が潤んでいるように見えるのは、俺の気のせいだろうか?


「どうかしたのか?」


俺と目を合わせようとしない雅也に声をかける。


「いえ、どうもしないですよ。行きましょうか?」


悲しげな笑顔が俺を見下ろし、俺に向かって手が差し出された。


何がお前をそんなに悲しい顔にさせてるんだ…


問いかけたい気持ちを押し殺して、俺はその手を掴んだ。


その原因が俺にあるとも知らずに…




三人で並んで無機質な建物を出ると、少しだけ曇った空を見上げた。


「降ってきそうですね?」


同じように曇り空を見上げた二木が言う。


雨は嫌いだ…

彼と別れたあの日を思い出すから…


彼の泣き顔を思い出すから…


「けっこう時間食っちゃったんで、急ぎましょうか」


駐車場に向かい、二木の運転する車に乗り込んだ。


その間も雅也の手は、俺の手をしっかり握ったままだ。


でも、それは全然嫌じゃなくて、寧ろ安心する。


俺は車窓を流れる景色を眺めたまま、ゆっくりと瞼を閉じた。




俺は、

一体どこに向かっているんだろう…

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