扉という扉を全部開けて回った。


風呂も、トイレも…全部。


でも、そのどこにも翔真さんの姿はない。


玄関の鍵はちゃんとかかっていた。



…ってことは、この部屋の中のどこかにいる…んだよな?



あと、探してないのは、物置として使っている部屋のみ。



もしここにもいなかったら?

いやいや、そんな筈はない。



俺はゴクリと息を飲んで、襖をそっと開けた。


「翔真…さん…?」


返事は…ない。

でも、その代わりに聞こえた、カタンと何かが崩れる音。


「翔真さん、いるんでしょ?」


やっぱり返事はない。


俺は蛍光灯の紐を引っ張った。



…いた。



パッと明るくなった部屋の片隅に、まるで物に同化するかのように、身体を小さく丸めた翔真さんが蹲っていた。


良く見ると、その身体は小刻みに震えていて…


俺は極力翔真さんを驚かせないよう、静かに翔真さんの前にしゃがみ込むと、ボサボサの髪をそっと撫でた。


「こんなとこで何してたんですか?」


俺の声に気づいたのか、翔真さんがゆっくり顔を上げる。


でも、その顔は涙に濡れていて…


「…ごめん」


俺は思わず翔真さんを抱き寄せ、謝罪の言葉を耳元に囁きかけた。


何に対してだか分かんないけど、翔真さんの泣き顔があまりにも悲しそうで、俺はそうせずにはいられなかった。




暫く翔真さんの背中を摩り、漸く翔真さんが落ち着いて来た頃、インターホンが鳴った。


二木だ。


「開いてるから、入ってきて?」


俺は翔真さんを抱きしめたまま、玄関に向かって声を上げた。


「誰か来るの?」


怯えた目が俺を見上げる。


「俺の友達です。怖くないから、安心して?」


俺の腕の中で、翔真さんが小さく頷いた。


「相原さん? どこ? ってか、何なのコレ…」


二木が驚くのも無理ないか…

なんたって部屋ん中、まるで泥棒でも入ったみたくパラダイス状態になってんだから。


「二木、こっちこっち…」

「こんな所にいたんですか?」


床の物を足で蹴散らしながら、物置部屋の入り口から顔を出した。


「それより…これ、どうしたんです? まさか、泥棒…?」

「違う違う、そんなんじゃないんだ」


まあ、この状況じゃ、そう思うのも当然っちゃ当然なんだけどさ。


「そ? ならいいんだけど…。それにしても酷いね…」

「うん。俺も帰って来てビックリした…」


部屋間違えたかと思ったくらいね?


「で、その人が…?」


二木の視線が翔真さんに移る。


「ん? ああ、そうなんだ。二木も覚えてるでしょ?」


俺は翔真さんに“ゴメンね”と断りを入れてから、顔の半分を覆う前髪を搔き上げた。


「あっ…先…輩…?」


二木が驚いた様子で目を見開いた。

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