第5章 散

「もう、絶対おかしいんだってば!」


仕事の合間の休憩時間を、俺は二木との電話に費した。


二木も松下と同じく高校時代の同級生で、多分一番中が良かった、所謂“親友”ってやつだ。


もっとも、二木が俺を“親友”だと思っているかどうかは、疑問だなんだけどね?


ま、何でも腹を割って話せる奴に変わりはない。


「おかしい、って言うけど、相原さんよりおかしいのって、よっぽどだよ?」



そうなんだよ、俺より…



「って、そんな冗談言ってらんないんだってば…」



こうしてる間にも翔真さんは…



それを考えたら、落ち落ち仕事も手につかない。


「まあさ、大体の話は分かったけどさ、どうすんの?」

「そこなんだよなぁ…。どうしたらいいと思う?」


住んでるとこも分かんないし、第一あの状態の翔真さんを一人にしておくのは、どうにも不安で仕方がない。


「実家は? 何か分かんじゃないの?」


そうか、その手があったか!


「それにさ、所持品とか無かったの? 財布とか、携帯とか?」



一応それらしき物は探してみたけど、手がかりになるような物は…



「あった! 一つだけあるわ…」


びしょ塗れになった、ボロボロのスーツの胸ポケットに入っていた、大田先輩からの葉書。

そこには確かに住所が書いてあった。


とは言え、翔真さんを部屋に一人にしておくことに、どうにも不安が付き纏う。


「あのさ、頼みたいことがあんだけどさ…その…、なんつーかさ…」

「分かりましたよ。私で良ければ協力しますよ」



流石だ、二木。

ひょっとしてお前はエスパーなのか?



「マジ? 助かるよ」

「最初っから“アテ”にしてたくせに、今更心にも無いこと言ってくれなくてもいいですから」


呆れ口調の二木。



ハハ、やっぱバレてたか(笑)



「で、私はソッチに行けばいいんですよね?」

「そうして貰えると助かる」


正直、あの状態の翔真さんを連れ歩くのは不安以外の何物でもない。


俺は体調不良を理由に仕事を早退した。


勿論、体調不良なんてのは、真っ赤なウソ。

仮病、ってヤツだ。


アパートで二木の到着を待つことにした。


バイクを走らせアパートに向かう途中、コンビニで弁当と飲み物を買い込んだ。


勿論、二木の分も忘れずにね…。


アパートの駐輪場にバイクを停め、錆びた鉄階段を一弾飛ばしで駆け上がり、建付けの悪い玄関ドアを開けた。


「ただい…ま…」



って、何これ…?



俺の視界に飛び込んで来たのは、予想もしなかった光景。


「しょ、翔真さん…?」


俺は乱暴に靴を脱ぎ捨てた。

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