第5章 散
1
「もう、絶対おかしいんだってば!」
仕事の合間の休憩時間を、俺は二木との電話に費した。
二木も松下と同じく高校時代の同級生で、多分一番中が良かった、所謂“親友”ってやつだ。
もっとも、二木が俺を“親友”だと思っているかどうかは、疑問だなんだけどね?
ま、何でも腹を割って話せる奴に変わりはない。
「おかしい、って言うけど、相原さんよりおかしいのって、よっぽどだよ?」
そうなんだよ、俺より…
「って、そんな冗談言ってらんないんだってば…」
こうしてる間にも翔真さんは…
それを考えたら、落ち落ち仕事も手につかない。
「まあさ、大体の話は分かったけどさ、どうすんの?」
「そこなんだよなぁ…。どうしたらいいと思う?」
住んでるとこも分かんないし、第一あの状態の翔真さんを一人にしておくのは、どうにも不安で仕方がない。
「実家は? 何か分かんじゃないの?」
そうか、その手があったか!
「それにさ、所持品とか無かったの? 財布とか、携帯とか?」
一応それらしき物は探してみたけど、手がかりになるような物は…
「あった! 一つだけあるわ…」
びしょ塗れになった、ボロボロのスーツの胸ポケットに入っていた、大田先輩からの葉書。
そこには確かに住所が書いてあった。
とは言え、翔真さんを部屋に一人にしておくことに、どうにも不安が付き纏う。
「あのさ、頼みたいことがあんだけどさ…その…、なんつーかさ…」
「分かりましたよ。私で良ければ協力しますよ」
流石だ、二木。
ひょっとしてお前はエスパーなのか?
「マジ? 助かるよ」
「最初っから“アテ”にしてたくせに、今更心にも無いこと言ってくれなくてもいいですから」
呆れ口調の二木。
ハハ、やっぱバレてたか(笑)
「で、私はソッチに行けばいいんですよね?」
「そうして貰えると助かる」
正直、あの状態の翔真さんを連れ歩くのは不安以外の何物でもない。
俺は体調不良を理由に仕事を早退した。
勿論、体調不良なんてのは、真っ赤なウソ。
仮病、ってヤツだ。
アパートで二木の到着を待つことにした。
バイクを走らせアパートに向かう途中、コンビニで弁当と飲み物を買い込んだ。
勿論、二木の分も忘れずにね…。
アパートの駐輪場にバイクを停め、錆びた鉄階段を一弾飛ばしで駆け上がり、建付けの悪い玄関ドアを開けた。
「ただい…ま…」
って、何これ…?
俺の視界に飛び込んで来たのは、予想もしなかった光景。
「しょ、翔真さん…?」
俺は乱暴に靴を脱ぎ捨てた。
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