桜木翔真“もどき”は弁当をペロッと平らげると、腹が満たされたせいか、続いて襲ってくる睡魔と戦うこともなく、呆気なく白旗を上げた。


コックリコックリと船を漕ぎ出した桜木翔真“もどき”を抱き上げ、ベッドに寝かせると、ものの数秒も経たないうちに、気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。


頬にかかる程伸びた髪を指で掬ってみる。



ますます似ている。

俺の思い出の中の“桜木翔真”に…


でも、俺の知ってる“桜木翔真”はもっと…


そうだ、アイツなら何か知ってるかも。



俺は突然思い立ってスマホを手にし、桜木翔真“もどき”が熟睡していることを確認してから、隣の物置状態になった部屋へと移動した。


スマホのアドレス帳を開き、懐かしい名前をタップした。


高校時代の同級生、松下だ。


松下とは趣味も性格も、全くの正反対だったが、ある事をきっかけに親しくなった。


松下は大田先輩に、ただの憧れとは違う感情を持っていたから。


そう、俺と松下は、ある意味“同類項”だった。


松下は高校卒業後の大田先輩と、頻繁ではないが連絡を取り合っていると言っていた。



松下なら、大田先輩から何か聞いているかもしれない。



俺はそう思った。


「もしもし、雅也?」


数回のコール音の後、聞こえて来たのは懐かしい声だった。





松下の話はこうだ…


大田先輩と翔真さんは、高校卒業後も数年は関係を続けていたらしいが、大田先輩が絵の勉強をするため、海外留学をしたことをきっかけに、二人は別々の人生を歩むことにした、と…



つまりは、別れたってこと、だよな…?



一人日本に残った翔真さんは、大学卒業後、業界内最大手と言われる不動産関連の会社に就職をしたらしい。


それは俺も風の噂に聞いたことがある。

誰もが一度は耳にしたことのある、有名な会社に就職した、と。


元々成績も常にトップをキープしてたし、生徒会長まで務めるような程の人だから、それも当然と言えば当然。



でもだったらどうして?


人も羨むような有名企業に就職して、エリート街道真っしぐら、順風満帆な人生を約束された筈の人が、どうしてこんな姿に?


今俺の目の前にいる、桜木翔真“もどき”は、やっぱり俺が憧れ続けた“桜木翔真”ではないのか?



はあ…、なんか余計に混乱してきたよ…




松下に聞くんじゃなかった、と後悔した所でもう手遅れだ。


いくら考えを巡らしてみたところで、結局は“どうして”に戻ってしまう。


これじゃ、堂々巡りもいいとこだ。


答えの出せない思考に終止符を打つため、俺はベッドに潜り込んだ。


シングルのベッドに、大の男が二人…


少々窮屈だけど、仕方がない。


何たって布団はこれっきゃないんだから。


俺は夢にまで見た翔真さん…実際には“もどき”だが、の温もりを感じながら、瞼を閉じた。

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