メットインを開け、メットを取り出し、そこに買ったばかりの弁当とペットボトルの袋を放り込んだ時、、



そう言えばさっきの人…



ふとあのホームレスの事が頭を過ぎる。



まさかな…

違うよな…

だってあの人は…


でも、あの声といい、“目”といい…

他人と言うには、余りにも似ている。


でも、あの人がまさかな…



俺は両手で頬をで叩くと、バイクに跨った。



違う、人違いだ。

あの人である筈がない。


うん、違うよ…な…?



頭に浮かんだ無数の“?”マークをかき消すように、ハンドルを回してアクセルを蒸す。


バイト先のスタンドからアパートまでは、バイクで約20分。


コンビニのある交差点を曲がればもうアパートはもうすぐそこだ。



腹減ったし、早く帰って飯食いてぇ。



オレの思いに応えるように、腹の虫がグルルッと返事を返した。


その時、通りに出て再びバイクを走らせ始めた俺の前に、黒い人影のようなモノが飛び出して来た。


俺は咄嗟にブレーキをかけ、バイクを影にぶつかる寸での所で急停車する。


「…っぶねぇーなー! どこ見て…えっ?」


衝突の衝撃は感じなかった。


なのに…


「噓だろ…?」


バイクの前輪から数センチも離れていない場所に横たわる…人の姿。



あのホームレスだ…



エンジンを停め、バイクを飛び降りた。


「あ、あの…大丈夫…ですか?」


かける声が震える。

おまけに地面に張り付いた足は、ガタガタと震え、そこから動こうとはしない。


「あの…ちょっと…」


もう一度声をかけるけど、やっぱり反応は…ない。



マジかよ…


血の気が引く、ってこうゆうこと言うのかな?

目の前は暗くなるし、指先だって超冷たくなってるし…



『25歳アルバイト店員、バイクで跳ねてホームレス死亡』


俺の脳裏に新聞の見出しが浮かぶが、



いやいや、ありえねぇってば…



メットで若干重たくなった頭をブルンと振ると、頭に浮かんだ映像を掻き消した。



大体が飛びだして来たのは、この目の前でひっくり返ってるホームレスであって、跳ねてもない俺に過失は無い筈…


このままにしとくか…

そしたら誰か…



『25歳アルバイト店員、ホームレスを轢き死亡させた上に、逃走』



いやいや、それも違うからっ!

つか、このホームレスって、さっきコンビニで揉めてた人だよな?



俺の記憶の、遥か彼方に仕舞いこんだ、あの人の面影に良く似た人…



だあ〜っ、仕方ねぇ!



俺はピクリとも動かないホームレスを抱き抱えると、何とかバイクの後部に座らせ、自分もバイクに跨った。


振り落としてしまわないように、脱力した腕を引き寄せ、腰に巻き付けると荷造り用のビニール紐で括った。


「これでよし、と…」



落っこちんなよ…?



俺は再びバイクのエンジンを蒸した。

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