桜葉舞い散る頃、貴方にまた会いたい…

誠奈

第1章 桜

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「お疲れ、上がっていいぞ」


店長が俺の肩を叩く。


「じゃ、お先っす!」


キャップを取り、軽く頭を下げロッカールームに入る。


石鹸とブラシを使って手を洗うけど、すっかり染み付いた油はそう簡単には落ちそうもない。


手を洗うのを諦めて、油に塗れたツナギを脱ぎ、Tシャツとハーフパンツに着替え、汗でしっとりとした前髪を掻き上げ、自前のキャップに被り直すと、俺はロッカールームを飛び出した。


「明日な!」


店舗の片隅に停めた愛車の原付バイクにキーを差し込む俺に、店長の声がかかる。


「はい、明日! お疲れっす!」


店長に向かって軽く右手を上げ、キャップの上からメットに被り、シートに跨ってシリンダーを回し、アクセルを吹かした。


行き交う車が途切れたところで、タイミングを見計らって大通りに走り出す。


時刻は午後9時を少し過ぎた頃。


信号待ちでバイクを止めると、不意に数メートル先のコンビニの看板が目に入る。



腹減ったな…

弁当でも買って帰るか…



信号が青に変わったと同時にアクセルを吹かし、コンビニを目指してバイクを走らせた。


少し手前でウィンカーを出してバイクをコンビニ駐車場に滑り込ませる。


つい最近オープンしたばかりのその店は、未だ大袈裟な飾りで俺を迎え入れてくれた。



どれにスっかな…



陳列棚には美味そうな弁当が、所狭しと並ぶ。



これにスっか…



手に取ったのは、割引きシールの貼られた唐揚げ弁当。



どうせなら、序に明日の分も…



「ちょっと何アレ…、やだァ…」

「臭くない?」


二つ目の弁当に手を伸ばしかけた俺の背後で、若い女性客がヒソヒソと囁き合う声がした。


「お客様困ります…」


続いて聞こてきた、おそらくは店員の声。


俺は伸ばしかけた手を引っ込め、後ろを振り返った。



…ホームレス…?



所々穴の空いた背広に、爪先が見え隠れするボロボロの革靴…

伸び放題の髪はボサボサで、顔の半分は髭で覆われている。


ソイツが店の入り口付近で、店員と押し問答を繰り返していた。


「金なら…」


穴の空いたポケットを探り、有り金を汚れた手のひらに載せ、店員に向かって差し出すが、


「ほんと、困りますから…」


冷たくあしらい、店員が自動ドアの向こうにホームレスを追いやる。


そして、自動ドアが閉まると同時に深々と頭を下げると、一言…


「お騒がせしました!」


と、店内に響き渡る声で謝罪の言葉を述べた。


騒動も収まり、俺は再び棚に手を伸ばし、二つ目の弁当を手に取った。



アレ…?

あの声…、どこかで聞き覚えがあるような…


それにあの“目”…

俺はあの“目”をした人を知っている…?



頭に“?”をいくつか浮かべたまま、俺は二つの弁当と、ペットボトルのお茶を手に、レジへと向かった。

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