終戦

「や、やめろっ! 来るなっ! 僕を殺すなっ! ひいっ!」


 ルード王子は尻もちをついていた。


「何を言っとるんやろなぁ。こいつ、お前のせいで何人死んだと思っとるねん。最後くらい潔くしろや」


「フェ、フェイ殿」


「あなたは、エドモンド国王、それに宰相まで」


「わしらは何もしてないんじゃ! 何も悪い事はしてない! ルード王子に脅されて属国になって、それで言う事をきかされてただけなんじゃ!」


「い、命だけは! 命だけはお助けください!」


 国王と宰相は俺にすがってくる。懐に入られたところで指揮系統は壊滅した。


「ルード王子を殺しちゃだめだ!」


「ん? なんでや? こいつが悪いんと違うんか?」


「大帝国はまだ戦力を保有している。ルード王子を殺した場合不必要に相手を刺激する事になる。それに彼は俺達の知りえない情報を知っているはずだ。それに交渉材料にもなる。生かしておく価値があるんだ」


「……そか。まあ好きにせいや」


「国王、宰相。あなた達も捕虜になって貰います」


「い、命が保証されるなら願ったりかなったりじゃ」


「で、できれば拷問などしないで欲しいであります。知っている事なら何でも話します故」


「く、くそっ! はなせっ!」


「大人しくしていろ」


 ルード王子は拘束された。こうして大帝国により侵略戦争は一旦の終戦を迎えたのである。


◆◆◆


 エルフ城の地下牢。そこにルード王子及び国王宰相は幽閉された。


「く、くそっ! ふざけるなっ! 僕を誰だと思っているんだ! 大帝国フィンの王子だぞ! こんな薄暗い地下牢に閉じ込めやがって!」


「フェイ殿。頼む! 無罪が証明されたらわしらをできるだけ早く解放してくれっ!」


「食事は一日三回。できるだけおいしいものを届けてくれると助かります! はい!」


各々が言いたい事をただ言っていた。


「今後の事はまた伝えます。しばらくはそこで大人しくしていてください」


「くそっ! ふざけるなっ! 僕を出せっ! このっ!」


 俺達は地下牢を去った。


 ◆◆◆


「フェイ様」


 ユースは笑顔を零す。


「ユース、何とか終わったよ」


「ありがとうございます。フェイ様のおかげで私達が、いえ、国が救われました」


「いや。皆のおかげだよ」


「フェイ様」


「ユース」


「……こほん」


 シャロが咳払いをする。


「フェイ様、お姉様。まだ我々はやる事が山積みです。喜ぶのはわかりますが今は控えてください」


「そ、そのとおりね。何をやってるのでしょうか、私は」


「そうだね。今はそれどころではないね。エルフ王のところへ行こう」


「ええ」


 戦争は終わった。だが、その後始末が大変だった。それでも大事が終わったという事で俺達はほっと一息つける時間となった。


◆◆◆


「ふむ。援軍に来てくれた亜人族の者ども。そしてフェイ殿。シャロ。皆の者よくやってくれた。おかげで我がエルフ国の危機は去った」


謁見の間には亜人族と俺達が終結していた。王の隣にはユースもいる。


「必要なだけの褒美は出そう。我々にできるだけの事だがな。我々も戦争により満身創痍じゃ。あまり期待に応えられぬやもしれぬ」


 戦争は終わった。しかし多くの負傷者が出た。遺体の埋葬もある。その後始末には長い時間がかかるだろう。そして捕虜を得た事を大帝国フィンに伝えなければならない。軍事交渉をしなければならない。二度とエルフ国に攻め入らない事を誓わせないと。


無論約束を破り奇襲してきたような連中だ。だが今は捕虜としてルード王子を手に入れている。だからきっと、エルフ国にとって有利に交渉を進める事ができるはずだ。


「とりあえずはご苦労であった、皆の者。休んでいきたいものは客室を貸し出す。あまり盛大なパーティーなどできぬが食事は振舞おう」


様々な問題を抱えつつもそれでも一旦、この戦争は終わりを告げたのである。



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