最強の矛と最強の盾
「ルード王子!」
「……なんだ?」
「エルフ国の方で動きがありました」
ルードは伝聞兵から報告を受けた。
「ほう。ついに降伏する決意をしたか。ユースティア姫を貢に来たのだろう?」
「い、いえ。違います。何やら白い物体に身を潜めながら移動しています」
「なに? どこら辺だ?」
ルードはオペラグラスを覗き込みながら視認する。確かに白い物体が見えた。
「なんだ? あれは? 盾か何かか。くだらぬっ! あんなチンケなもので魔道カノンを防げるものかっ! 魔道カノンの準備をしろっ!」
「はっ! 魔道カノン準備!」
「ぐうううううううううううううううううううううううううっ!」
「ううううううううううううううううううううううううううっ!」
魔道カノンには大きな代償があった。それは魔導士十数名の命を削って放っているという事であった。その巨大な筒の内部では、拘束された魔導士が干からびた魚のようになっている。生命力の源といえる魔力を大量に吸われているのだ。このまま使用していけば絶命する時は近い。
だがそれでいい。彼等は燃料だ。燃料が切れたらまた補給すればいい。それだけの事だ。生体燃料だとしか考えない。
「魔道カノン発射だ! あの白い目標物に放て!」
「魔道カノン! 発射!」
ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
ものすごい音をたて、絶大な力を誇る魔力弾が放たれる。
「ふっ」
ルードは勝利を確信し、笑みを漏らした。
◆◆◆◆◆
「……来る」
魔道カノンが俺達に向けられた。当然のように敵は気づいているようだ。
「皆! 伏せろ! イージスの盾に隠れるんじゃ!」
「ところでゴンさん。この盾ってどういう効果があるんですか?」
シャロは聞いた。
「そいつはもう……こいつは神話の時代からある万能の盾だからの」
「来る! 皆! 伏せろ!」
「物理攻撃も魔法攻撃も防ぐ『魔力障壁スキル』が施されているんじゃ」
イージスの盾の前方に魔力による盾がさらに展開される。魔力弾と魔力障壁がぶつかり合い、せめぎあう。
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
それでもものすごい衝撃と音がした。
「皆! しっかりつかまれ! 吹き飛ばされるなっ!」
長い時間かかった。その防風は。しかし、いずれ止む。
しのぎ切った。何とか、しのぎきったみたいだ。
「皆、無事か?」
「何とかにゃ。なんとか生きてるにゃ」
「ああ。俺様もだ!」
「おらたちも無事だ!」
「うちらもやで。何とか生きてるわ」
「そうですか。それは何よりです」
「思った通り連続では撃ってこないみたいやな。手間取ってるわ」
「ええ。思った通りです。賭けに勝ちました。防ぎ切れば勝機はある。そう思ってました」
「ほなら。後はひとつに決まってるやない」
バハムートは笑みを漏らした。狩猟者が獲物に対してする笑みだ。絶対的強者が弱者に対してする笑み。余裕のある笑いだ。
「反撃開始や」
◆◆◆
「ば、馬鹿な! 魔道カノンを防いだだと!」
ルード王子は驚いていた。
「こ、これはまずいのではないか! 宰相!」
「こ、国王まずいのではないですか!」
旗色が悪くなり、二人は震えていた。
「すぐに第二射の準備を整えろ!」
「無理です。クールダウンが必要です。生体燃料ももう限界かもしれません。魔導士の取り換えもしないと」
「ちっ! 流石に無理か! ありったけの兵を投入して叩け」
「もう遅いで」
声がした。
「なっ!」
ドラゴンだ。目の前に現れたのは、赤と黒の竜。亜人も乗っている。そしてあの人間。鍛冶師のフェイもだ。
「旨そうな肉がいっぱいあるやないの。これは御馳走やで」
「うん! ごちそう! ごちそう! じゅるり」
「うっ、うああああああああっ」
予想外の出来事にルードは慌てていた。もはやパニックになっている。
「随分うちらに大層な真似してくれたやないの。借りは返させて貰うで」
「な、なにをしている! 銃を撃て! 何とかしろ!」
ピュンピュン! しかし鋼鉄の肌に弾かれる。
「なんやその豆鉄砲。効かんわ」
「きかんわーーーーーーーーー!」
「う、嘘だっ! こんなの計画してないっ!」
ルードの前に何人か降り立ってきた。あの鍛冶師フェイとそれからエルフ姫のシャロティアである。
「な、なんだっ! お前達のその目は! 僕を見下すなっ! 僕は大帝国の王子だぞっ!」
「詰みだ! ルード王子」
「ひ、ひいっ!」
ルードは剣を突き付けられた。こうして最強の矛と最強の盾のぶつかり合いは、盾に軍配があがったのである。
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