フェイが貴族に
戦争から一週間の時が経過しようとしていた。戦争の傷跡は大きい。だが、次第に傷が癒えていくのを感じた。皆前に進もうとしている。
そんな矢先の事だった。俺は国王に呼び出された。
「フェイ殿に重要な報せがあるのじゃ」
「報せ?」
「ああ。今回の戦争、フェイ殿の活躍を心から称え、褒美を授けよう。とはいえこれ以上の金銭を望みはしないだろう。だからフェイ殿に貴族位を与える」
「俺が――い、いえ、私が貴族ですか?」
「そうだ」
「で、ですがいいんですか? 俺はエルフではありませんよ。何かと問題が」
「いいんだ。わしが決めた事だ。フェイ殿の活躍を少しでも称え、労いたいと思ったのだ」
国王の隣にいるユースは微笑む。俺も微笑んだ。
こうして俺達はまた一歩進む。二人の理想に向けて。小さくない一歩を歩み出したのだ。
◆◆◆
エルフ国の貴族会議だった。そこには数人のエルフ、その貴族たちが集まっている。会議の主な内容は人間の鍛冶師であるフェイに国王が貴族位を与えたという事にある。
「人間に貴族位を与えるだと! 鍛冶師風情が我々と並ぶというのか!」
「まあまあ。フェイ殿はこの度の戦争で活躍をしたそうではないか。国王もそれを評価しているのだろうて」
賛成派と反対派で二分していた。
「だがしかし! 貴族位まで与える事はないだろうが! 私はそもそも気にくわなかったのだ! エルフ国に人間を招来するなど!」
頭の固いエルフの貴族もいた。彼等はかつてのシャロのように純血主義を唱えていた。排他主義者でもあったのだ。
「問題なのは貴族位を与えた事だけに他ならない。噂ではユースティア姫と鍛冶師フェイは恋仲にあると噂されている! このままでは貴族位を与えた事にとどまらず、あの鍛冶師フェイが国王の座に就く可能性も十分にありうる!」
「ならぬっ! それはならぬぞっ! エルフでも何でもない人間が国王になるなど、絶対にあってはならぬっ!」
エルフ貴族。そしてその純血主義者の男。名をペテロと言った。ペテロには息子がいた。息子の名はロイと言った。ペテロは息子であるロイをゆくゆくはユース姫と婚姻させ、国王の座について欲しいという大望があったのだ。
だが、それが脆くも崩れようとしていた。さらには、人間である、いわば余所者の存在によってだ。
ペテロにとっては屈辱極まりない事であった。
この日の貴族会議は生産性のない、ただの口論で終わった。国王の決定に今更異を唱える事は困難であった。だから不満はあれど、反対派の貴族たちも渋々受け入れざるを得なかったのだ。
◆◆◆
「くう……」
ペテロは屋敷に戻った。
「いかがだったのですか? 父上。会議は」
色白の美青年がいた。彼が息子であるロイだ。
「どうもこうもない。国王の決定には逆らえぬよ」
「そうですか。鍛冶師フェイですか。このエルフ国を救った英雄だと言われています。ですが、目障りですね。生きた英雄が必ずしも歓迎されるわけではありません。時と場合によっては死んだ英雄の方が貴ばれる事もあるはずです」
「そうだな。その通りだ」
「私も父と同意見です。国王に相応しいのは我々エルフです。さらには貴族から出る方がいい。当然です。ここはエルフの国ですから。なぜ余所者、その上他種族が国王にならなければならないのですか?」
「そうだ。その通りだ」
ロイは父ペテロの影響もあり、バリバリの純血、排他主義者だ。その思考が行き過ぎているきらいすらあった。
「父上。私に考えがあるのです」
「考え?」
「英雄は英雄らしく、おとぎ話の中で語られるだけの存在になってもらいましょう」
ロイは笑った。その笑みは凄絶な笑みであった。悪意を含んだ、邪悪な笑みだ。
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