シャロティアからの果し合い

「……はぁ」


 大浴場に入った俺は溜息を吐く。色々な事があった。


 主にはユースの妹であるシャロティアとの事である。エルフの国に来てからああも敵対的な態度をとってくる相手に初めて会ったのだ。正直動揺した。


 だけどそれが本来他種族である人間に向けられる視線なのかもしれない。差別や偏見はない方がいいが、あって然るべき現実でもある。なくそうにもなくならない。


 生まれも違えば育ちも違う。多種多様な種族でこの世界は構成されている。


 否定しようのないそれが現実だった。俺とユースが結ばれるとしたら、そういった差別や偏見をクリアしていかなければならない。


 ましてやそれが実の妹相手だったら尚の事である。


「できるのかな……俺に」


 自信はなかった。だが、やるしかなかった。


「よし! 俺はやるぞっ!」


 どうにかして、シャロの評価を変えていかなければならない。そうしなければ前に進めない。俺は決意を新たにした。


 ——と。その時だった。

 ガラガラ、と大浴場の戸が開かれる。


「え?」


 俺は一瞬、またユースやソフィアが入ってきたのかと思った。だが、入ってきた人物は全くの別人物だった。シャロティアだった。


 そう、彼女は一糸まとわぬ姿で浴場に入ってきたのだ。ユースと同じ、無駄のない理想的な体。だが、胸周りの肉はユースよりもあるような気がした。後はやはり、筋肉質だった。戦闘訓練をしているのだから当然か。


「なんで?」


 俺は呆けたように声をあげる。


「それは私の台詞だ!? なぜ人間である貴様が我が城の大浴場を使っている!?」


 それもそうだ。


「それは、その使っていいと言われているからで。その」


「……いつまで見ているんだっ! この変態がっ!」


「す、すまない」


 シャロティアは顔を赤らめ、体を隠す。そういった態度に俺は新鮮味を覚えた。ユースやソフィアにはそういう態度はなかったが、これが普通の女の子の態度な気はする。


「……くっ。私は出る。人間なんかと一緒に風呂など入れるか」


 こうしてシャロティアは風呂から出て行った。


 ◆◆◆


「……ごめんなさい。フェイ様。シャロにフェイ様が大浴場を使用する旨伝えてなくて」


 風呂上り、ユースが俺にそう謝ってくる。


「そうだったんだ……仕方ないね。それにしても、あれは大きな障害だよね」


 ゆくゆくは俺がこの国の国王となっていく。そしてユースを妻として娶るとするのならば、実妹のシャロティアの存在は大きな障害になりうるであろう。

 そうとしか思えなかった。


「そうなのです。武闘派である事は構わないのですが、排他的なのはどうにかして欲しいのです。排他的なだけでは国はよくなりません。やはり良いものは取り入れていかなければ発展はしていかないのです」


「それはその通りだけど、言って聞くような感じには見えないよ」


「少しずつでもフェイ様の良さを理解してもらってシャロが考えを改めて行ってくれればいいのですが」


「……お姉さま」


「シャロ」


 その時だった。シャロティアと出くわす。


「何なのですか!? さっきからその人間と何を親密に話していたのですか?」


 どうする? どう答える? 俺が考えているうちにユースが言葉を発していた。


「どうしたらあなたがフェイ様の良さを認めてくれるのかを話し合っていたのよ」


「フェイ様? お姉様。人間ごときを様付けするなんて、おかしくはありませんか?」


「フェイ様は素晴らしいお方よ。それを人間だからって否定するあなたの考えこそ私はおかしいと思うわ」


「もしかして、お姉様はその人間の男に、異性として好意を抱いているのですか?」


「そうよ。そうだとして、シャロ。あなたはどうするの!?」


 シャロは剣を抜いて、俺を指した。


「人間めっ! よくもお姉様をたぶらかしたなっ!」


「いやっ! そんなつもりはないっ! たぶらかしたなんてっ」


「私と勝負をしろっ! 人間っ! 鍛冶師フェイっ!」


「勝負!?」


「ああっ! 勝負だっ! お前が私との勝負に勝ったら、鍛冶師としてこのエルフ城に居住する事を許可してやろう! 差別せずちゃんと対等の存在だと認める!」


「俺が負けたら?」


「その時はこのエルフ国を出て行ってもらおう!」


「勝負の内容は?」


「当然、剣でつける。どちらかが負けを認めるか、意識を失った方の負けだ。当然死んでも文句はなしだ!」


「いいだろう!」


 俺はその勝負を受けた。


「フェイ様!」


「なんだ? ユース。何が心配なんだ。相手はただの女の子だ。エルフとはいえ、なんとかなるよ」


「シャロはこのエルフ国一の剣の天才なんです」


「えっ!?」


 俺は絶句した。


「勝負は明日の午後一時。城の庭で行う。首を洗って待っていろ」


 そう言ってシャロティアはその場を去っていった。


「だ、大丈夫でしょうか。フェイ様」


「や、やるしかないよ。やるしか」


 そうこうしているうちに夜が明け、決闘の時間帯である午後1時が近づいてくる。



 


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