姫騎士シャロティアの帰還

「フェイ様……」


「なんだい?」


 エルフ城を歩いていた時、ユースに呼び止められる。


「昨夜、エルフ兵から侵入者がきたという知らせがありました。それもフェイ様の工房の方に向かったと」


「うん。そうだけど」


「だ、大丈夫だったのですか?」


「大丈夫だったよ。何もせずに帰っていったよ」


「そうだったのですか。フェイ様がご無事で何よりです」


 ユースは胸を撫でおろす。


 ——そんな時の事だった。


「シャロティア様がお帰りになるそうだぞ」


「なに!? シャロティア様が」


 使用人達が慌て始めた。


「シャロティアって、誰なの?」


「私の妹です」


「妹? ユースには妹がいるの?」


「はい。ですが、あまりご紹介はしたくはありませんでした」


「どうして?」


「私とは正反対のタイプだからです。ですが、妹は妹ですからいつまでもしらばっくれているわけにもいきません。いずれは向き合わなければなりませぬ。これも我々の障害のうちのひとつです」


「はぁ……よくわからないけど」


 ◆◆◆


「父上、母上。私、シャロティアはエルフ兵の軍事演習から帰還しました」


「そうか。ご苦労であったぞ。シャロティア」


「久しぶりね。シャロティア」


 王室に現れたのは一人の美少女だった。ユースと同じくらいの美少女。金髪のエルフ。だが、その風貌はえらく異なっていた。鎧を着てたし、剣も携えていた。

 姫騎士といった風貌だった。確かにユースとはタイプが正反対にも見えた。


「妹は闘いを好まないエルフの中では特殊なんです。ガチガチの武闘派なんです」


「はぁ……」


 俺達は物陰からその様子を見ていた。だが、俺は別に闘い自体を否定する事はできなかった。闘いがあるからこそ、武具は役立たれるし、引き立たされるものだ。

 それに俺は以前ユースに力がなければ守れないものもあると教えた。綺麗事だけでは守れないものも確実にこの世の中に存在していた。


「それともうひとつ、シャロが私とは大きく違う事があるのです」


「え?」


「そのうちわかると思います。フェイ様がシャロと対面すれば」


「はぁ……」


「ユースティアお姉さまの姿が見受けられないようですが」


「……そうだな。ユースは別の用事があってな。席を外している」


「それとね。シャロ。あなたがいない間に、このエルフの国では色々な事があったの」


「色々な事?」


「そ、そうだ。色々な事が、追って話す予定だ」


 国王と王妃の表情が歪む。


「……何やら先ほどから匂いがします。エルフ以外の匂い。これは、人間」


「あっ、やばいっ」


 シャロティアは腰から剣を抜いた。


「不届き者! 出てきなさい! その匂いは私には誤魔化せません!」


 仕方なしに俺はユースと共に姿を現す。


「お、お姉さま! なんですか! その人間は!」


「シャロはガチガチの純血主義者でもあるのです。排他主義者で、エルフ以外の種族を決して認めようとはしません」


 ユースは耳打ちする。


「何者なのですか!? 貴様は!?」


「シャロ! この方は鍛冶師のフェイ様! この国で鍛冶師をしてくれているの!」


「その人間は鍛冶師なのですか」


「ええ。この方は人間だけど、我々エルフにとってとても必要なお方なの」


「そうですか。100歩譲って、エルフの国に人間を招くのはいいとしましょう。ですが、人間など薄暗い工房にでも閉じ込めて家畜同然に働かせていればいいでしょう! なぜエルフの城に居座っているのです!」


「シャロ、それは違うわ。このお方はそうするだけの価値がある方なの。ぞんざいな扱いではこの方をつなぎ留めておく事はできない!」


「だったら出て行ってもらえばいいのです! そんな人間の鍛冶師!」


 平行線だ。二人の会話は。


「まあまあ、シャロ。姉妹喧嘩はよせ。私たちも娘たちが喧嘩するところは見たくないのだ」


「そ、そうよ。どうかこの場は収めて」


「ふん」


 納得できないという様子だったが、それでも父母に言われて気が治まったようだ。

 シャロティアは引き抜いた剣を元に戻す。


「人間の鍛冶師、名をなんという?」


「フェイだ」


「そうか。フェイというのか。私は貴様がこの場にいる事を決して認めたわけではないからな。そこを勘違いするな」


 シャロティアはそう言い残し、その場を去っていった。



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