フェイの洗脳に失敗した国王に救いの手

「なにぃ! 失敗したじゃとぉ!」


「は、はい! 申し訳ございまいません!」


 国王と宰相(※大臣ではわからないという指摘があったためこの名称に変更します)の元に来た知らせは期待していたものではなかった。

 呪術集団『呪』から告げられた報告は期待とは正反対の結果だった。


「なぜじゃ! なぜ失敗した!」


「おそらくはフェイ殿は状態異常を無効化する防具を身に着けていたのです。そのため、我々の洗脳呪術が無効化されました」


「なんだとぉ! この役立たずめ!」


「申し訳ありません!」


「くそっ! 貴様らに払った金貨200枚! さっさと返せ!」


「それはお返しできません」


「帰れ! 二度とわしの目の前に現れるな!」


「はっ! では失礼します!」


 呪術師集団はそう言ってその場を去っていった。


「どうするのじゃ! フェイの洗脳には失敗し、このままでは。そのうえに金貨200枚を失った。これは手痛い出費じゃ。鍛冶師の問題も片付いてはおらん!」


「国王陛下!」


 使用人が慌てて駆け寄ってきた。


「なんじゃ? そんなに慌てて!?」


「大帝国フィンからの使者です!」


「なんじゃと。大帝国からじゃと!」


「大帝国の王子が是非取引をしたいとおっしゃっております!」


「なんじゃと……一体どのような用件だ」


「わかりません」


「とにかく会ってみない事にはわからないのう」


 国王は大帝国の王子と面会する事になった。


「お初にお目にかかります。私は大帝国フィンの王子。ルードディッヒ・アレクサンドリアと申します」


「は、はぁ。ルードディッヒ王子」


 王子の目の前に現れたのは金髪をしたいかにも王子らしい見た目の青年であった。美形であり、笑顔も似合う。着飾った服も似合っていた。何よりも品性や風格を備えていた。王子を体現したような男だ。


「国王エドモンド。私の事はルードで構いません。長いですから」


「はあ。ルード王子。それで取引とは?」


「輸入する武具の品質が低下し、困っているそうではないですか。なんでも熟練した鍛冶師が不足していると」


「なぜそれを! どうして知っているのです!」


「政治にとっては情報は命ですよ。常に我々は耳を立てているのです」


「くっ。そうですか」


 弱みをひとつ握られているというわけだった。


「お貸ししましょうか? 熟練の鍛冶師を」


「は、はい!? なんですと!?」


「お貸ししましょうかと言っているのです。鍛冶師を。勿論、給料はこちらでお支払いしていますのでそちらは何も支払う必要はありませんよ」


「そ、それは何とも喜ばしい提案!」


 国王は小躍りした。だが、国王もそこまで馬鹿ではない。何か裏があるのではないか。おいしすぎる話を提示された時、人は当然裏の事を考えてしまう。


「な、何か裏があるんでしょう!? 提案がおいしすぎます」


「ご明察です。世の中はギブ&テイクです。我々も自分たちの利益のために動いているのです」


「して、その見返りは?」


「我々の大帝国フィンの属国となって欲しいのです!」


「ば、馬鹿な! それでは我が王国ハイゼルは実質的に貴国に吸収され、消滅してしまう!」


「こちらとしても形式上はあなたに国王を名乗っていただいて構わないと考えています。国家としての体裁は整えましょう」


「し、しかし! それは所詮は体裁だけの話じゃ! わしの国王としての地位も!

王国も上辺だけの存在になってしまうのじゃ!」


「そういうことになりますね」


「た、高々、鍛冶師を借りるくらいで属国になるなど、とても割に合わない! お断りじゃ!」


 国王は声高に言い放った。しかし、ルード王子は一切表情を変えない。


「いいんですか? そんな事を言って。我が国と貴国の軍事力の差は歴然だ。攻め落とす事は容易なんですよ」


 笑顔ではあるが、温かさは微塵もなかった。声には氷のような冷たさが宿る。


「くっ。貴様! 若造のくせにわしを脅す気!?」


「我々は平和的な解決を望んでいるだけです。本当は戦争なんてしたくはない。わかってくれますよね?」


「くっ! 鬼畜がっ! 卑劣感がっ!」


「あなたも散々弱いものを食い物にしてきたでしょう? 今度はあなたが我々に食い物にされる。それだけの事ですよ」


「くっ、ううっ! くううううううううううううううううううううううううううう!」


 国王は悔しそうに涙を漏らした。


 そして王国ハイゼルは大帝国フィンの属国となった。実質的には王国は消滅したのである。

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