専用の工房が完成する


「フェイ様」


「なんだい? ユース」


「来ては頂けないでしょうか?」


 俺の部屋にユースが入ってきた。それはエルフの国に来て一週間ほどの事である。それから俺は怠惰な生活を送っていた。正直この生活を送っているとダメ人間になりそうだった。ただの無職より酷い。何せ身の回りの世話は何でもソフィアがやってくれるのだ。


「どうかしたの?」


「大工達による工事が終わったのです。フェイ様専用の工房したのです」


 そういえばエルフ国の専属鍛治師となる際にそういう決め事をしていた事を思い出す。早速工事に入るとは言っていたが、こんなに早く完成するとは思ってもみなかった。


「早いね。特にやる事も今はないし、見に行くよ」


「はい。早速見に行きましょう。私も楽しみです」



 木製の立派な工房がそこにはあった。幾人ものエルフがいる。彼らが大工工事をしたエルフだろう。


「あんたが鍛冶師の兄ちゃんかい?」


 大工の棟梁という感じの男がいた。職人気質の男なのだろう。言葉にあまり遠慮がなかったが、どちらかというとこういう対応の方が慣れ親しんだものだった。王城の使用人はあまりに気を配りすぎてきて、こちらが気疲れしてしまう。


「棟梁! 失礼ですよ! 相手はこの国の英雄なんですよ!」


 下っ端と思わしき大工の男が言う。


「ああ。悪い、悪い。俺はこういう口の聞き方しかできなくてな」


「いえ。いいです。気にしないでください。むしろそういう口の利き方の方が慣れていて気づかれしないです」


「そうか。そいつはありがてぇな。早速兄ちゃんの工房が完成したよ」


「早いですね」


「何せこの国の救世主だっていうじゃねぇか。鍛治師の兄ちゃん。だから若い大工を何人もぶち込んで、突貫工事で終わらせたんだ。だからと言って手抜きはしちゃいねぇ。立派なもんだろ」


「ええ。立派です。とても一週間で作ったとは思えないです」


 木造の工房が目の前にはあった。


「中に入ってくれ」


「はい」


 俺はユースと共に中に入る。


「まあ、素敵」


 ユースは声を上げる。地味な雰囲気は否めないが、それもまた工房と呼ぶに相応しかった。

 剣を鍛錬する釜戸から、剣を打つハンマー。それも大きいのから小さいのまで壁に吊り下げられていた。

 無駄なものは少ない為、少し殺風景に見えるがそれはこれから俺がカスタマイズしていけばいいという配慮だろう。


「どうだ? 立派なものだろう? 中も」


「ええ。感激しました。俺、自分だけの工房を持つのが夢だったんです。それがこんなにもすぐに叶うなんて」


 雇われの鍛治師にとって自分の工房を持つのは夢であった。俺がやっていた鍛冶仕事は集団による流れ作業だった。


 隣では同じような贋作鍛治師が必死にハンマーで叩き、鍛錬をしていた。


 そのカンカン、という音は耳障りであったし、とても集中できるものではない。

 監督員のように作業を見張る人間もいて、職人というよりは奴隷というに相応しかった。


「おいおい。泣くのは早いぜ。兄ちゃん。あんたはこれからこの国の為に、良い武具を鍛造していってくれないといけないんだからな」


「は、はい! 頑張ります!」


 こうして俺は専属メイドに引き続き、専用の工房を手に入れるのであった。


 こうして俺のエルフ国での本格的な鍛錬ライフが始まる事となる。

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