専用のメイドを配属される
「フェイ様」
「ん?」
俺がエルフ城を見物していた時だった。ユースに呼び止められる。
「ご紹介したい人がいるんですが、少々よろしいでしょうか?」
「いいけど、誰なんだい?」
俺は別に暇つぶしと興味本位で城を見回っていただけなのだ。特別やる事はなかった。
「紹介します。メイドのソフィアといいます」
「初めまして、ソフィアです」
ユースの隣にいたメイド少女が言う。すごい美少女だった。金髪のショートカットにヘッドドレスをしている。無論エルフなので年齢は人間よりかなり年なのかもしれない。でも女性に年齢を聞くのはマナー違反だ。そんな地雷は俺でも踏みはしない。ただ彼女達が仮に100歳でも200歳でも驚かないように心の準備だけはしておくつもりだ。
「ソフィアにはフェイ様の専属メイドをしてもらう予定なんです」
「はい。専属のメイドとしてフェイ様に仕えさせて頂ければと思います」
専属のメイドだって! そんなものまでつけて貰えるのか。まるで王様みたいじゃないか。まあ王族と同じ扱いをするようにという事なので、俺も同列に扱ってもらっているのだろう。
「けど、専属のメイドって言われても何をさせればいいんだ」
「なんなりとお申し出ください」
なんなりと、か。こうして俺に専属メイドであるソフィアがつくようになった。
ソフィアは俺のすぐ後ろをつくようになった。何かあった時にすぐ対応できるようにしようと考えているのだろう。だが、少しやりづらかった。人の視線が常にあるというのは。
俺がトイレに入ろうとした時だった。ソフィアも入ってきた。
「……どうしてソフィアも入ってくるの?」
「お尻をお拭きしようかと」
「尻くらい自分で拭けるよ。そこで待っててよ」
「はっ」
やりづらい。
食事の時だった。
「うわー。すげー」
もの凄い豪華な料理が並ぶ。エルフ料理だった。ぱっと見はそんなに変わらない。おそらくは森でとれる素材と飼育している畜産物より作られているのだろう。
「この国で最高のシェフが作った料理です。どうぞご賞味ください」
「いただきます」
その時だった。ソフィアがスプーンを持つ。
「ん?」
「は、はい。あーん」
口にスープを運ぶ。
「あーん」
旨い。
「って、おいしいけど自分で食べれるよ」
「そ、そうなのですか。こうやって食べさせると男性は喜ぶとメイド教育を受けてきたのですが」
「ま、間違ってはないけど食べづらいよ。自分で食べられるんだから」
「そうですか。申し訳ありません」
「いや、謝るような事じゃないよ」
俺はこうして食事を終えた。
俺は風呂に入った。大浴場だった。
「はぁ……」
ソフィアは真面目だし、美人だし、良い子だ。だけど少し度が過ぎて真面目というか。どうもやりすぎてしまうところがあるメイドだった。だが、それも彼女の魅力なのかもしれない。
情欲にかられて変な事を命令しないようにしよう。無論彼女も拒まないだろうが。
立場を利用して強要するなんてパワハラみたいなものじゃないか。
俺は風呂場で物思いにふけっていた時だった。
ガラガラ。戸が開かれる。
「ぶっ」
風呂場に入ってきたのは全裸のソフィアだった。綺麗な裸体を存分にさらしている。
「な、なんでソフィアが」
「もちろん、お背中をお流しにきたのです」
「い、いや。ちょっと、待って」
俺は童貞なんだ。学院の時は鍛冶に打ち込み、女の子の手も握った事がない。宮廷に入ってからも同じだ。女の子の手も握らず、ただただ仕事に打ち込む、いや追い込まれる毎日。だから女の子に対する免疫は皆無なんだ。
それがいきなり美少女が裸で風呂に入ってくるなんて。ステップを何個もすっ飛ばしていてとても心が持たない。
「い、いかがされましたか? ま、まさか私の体が見苦しくてお気分を悪くされましたか? 誠に申し訳ありません。もう私は死んで詫びるしか」
どこからかソフィアはナイフを持ち出してきた。なんで風呂場にナイフなんて持ってきているんだ。髭剃りか。ともかくとして。
「や、やめろ! ソフィア! そうじゃないんだ! 死なないでくれ! 頼むから!」
「よかったです……私はまだ生きていていいんですね? お邪魔ではないでしょうか?」
「邪魔じゃない、邪魔じゃ。生きててくれ頼むから。死なないで。ただちょっと俺には刺激が強すぎて」
「刺激?」
よくわかっていない様子だった。自分の体を見て男が欲情するという事を想像もしていない様子だった。
「わ、わかった。背中、流してくれ。流してくれていいから」
「かしこまりました。誠心誠意を込めてお背中をお流し致します」
こうして俺はソフィアに背中を流される事となった。
ごしごし。背中を流される。
俺は極力ソフィアの方を見ない事にした。見ても怒られるわけでもない。何も言われないだろう。だが俺の心臓に悪いため見ない事にした。ショック死するかもしれない。童貞の俺には刺激が強すぎる。
「フェイ様、前の方も洗わせて頂ければ」
「い、いや。やめてくれ、それは。前は自分で洗えるから」
俺は前かがみになっていた。なぜかは言わない。
「そうですか。わかりました」
そして風呂上りだった。
「お体をお拭きします」
「拭ける! 自分で拭けるから!」
「はっ。わかりました」
こうして俺は慌ただしい入浴を終えた。心臓に悪いため、彼女と入浴を共にするのはこの日限りにしてもらった。それからは入浴中は外で控えて貰っている。
こうして俺専属のメイドであるソフィアが配属されたのである。
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