第24話 ぽちゃん


 Y川さんがまだ小学校低学年だった頃の話。


 Y川さんが友達の家に遊びに行く途中、道を歩いていると、唐突に

 ──ぽちゃん──

 と、池に石を落とした時のような音が聞こえたそうだ。

 Y川さんは周りを見回したが、近くにあるのは少し広い空き地で、そこに草が生い茂っているだけだった。池も川もなかった。

 草むらの中に、草に隠れて水たまりでもあるのかと思ったが、見える範囲に濡れているようなところはなかった。

 雨にしては、音が大きいし、ある程度の重さのものが、水面に落ちた音としか思えなかったそうだ。

 水の気配が全くしないのに、何であんな音がしたんだろう、とY川さんは不思議に思ったそうだ。

「なんだったんだろ」

 Y川さんが呟くと、

 ──ぽちゃん──

 再び音がした。

「え、何?」

 ──ぽちゃん──

 また、同じ音。

 あまりにタイミングよく音が鳴るので、Y川さんは、何かが意思をもって伝えたいことがあるのではないかと考えた。

「聞こえてるの?」

 ──ぽちゃん──

「何か言いたいの?」

 ──ぽちゃん──

 少し不気味だったが、対話できると感じたY川さんは、その謎の音に問いかけた。

「──もしかして、友達、に、なりたい、とか?」

 一瞬の間が開いた。

 Y川さんは、なんか聞いちゃいけないことだったのかな、と思ったその時、


 ──ぽちゃぽちゃぽちゃんぽちゃぽちゃぽちゃんぽちゃぽちゃぽちゃ──


 まるで雨でも降るかのように急にたくさんの水音が響いた。

 Y川さんは、恐ろしくなってそのままその場を走って逃げた。

 草むらから離れると、すぐに音は聞こえなくなったそうだ。

 友達の家に着いたとき、Y川さんは半べそをかいていたという。


 その後、Y川さんは、二度とその草むらには近づかなかないようにしたそうだ。

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奇妙な話 たけ @take-greentea

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