第23話 夢

 

 その日、私は怖い夢を見た。


 私は、いつも通勤で使う坂道を下っていた。

 普段は自転車には乗らないのだが、何故かその時、私は自転車に乗っていた。

 坂をとんでもない速度で自転車で下っていく。

 ずっと先の踏切の遮断機が降りていくのが見えた。

 ブレーキを強く握りしめるが、自転車は止まらない。

 足を地面につけようとしたが、靴が吹っ飛んだ。

 私はそのまま転んで、地面を滑るように、自転車と一緒に踏切を超えて線路内に入っていった。

 痛みは全く感じなかったので、動こうとしたが、何故か身体が動かなかった。

 けたたましい警笛が鳴り、金属がこすれるブレーキ音が聞こえた。

 電車が突っ込んできていた。

 ものすごい衝撃とともに、私は自分の身体がばらばらになったと感じた。


 目が覚めると、自室のベッドに横たわっていた。

 動悸が止まらない。

 時計を見ると、いつも起きる時間よりも少し早いくらいの時間だった。

 怖い夢だったと思いつつも、そのまま朝食をとり、準備をして仕事に出かる。


 通勤の道すがら、歩道にパトカーが止まっているのが見えた。

 夢で見た坂の下にある踏切のすぐ脇だ。

 現場を検証しているのか複数の警官がおり、野次馬が何人も集まっていた。

 寒気がした。

 そのまま歩いて行くと、線路の上にひしゃげた自転車が残っているのが見えた。

 野次馬のひとりに、何があったのか尋ねると、自転車に乗った中学生が、坂道でスピードを出しすぎてそのまま踏切に突っ込んでしまって、電車にひかれたらしいという。

 いつごろか、と尋ねると、一時間くらい前じゃないかな、と言われた。

 ちょうど私が夢を見ていた時間だ。

 私が見たのは、事故の瞬間だったのだろうか。


 結局、仕事には行ったものの、あまり仕事が手につかず、早退した。

 その後、同じような体験はない。

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