第14話 にく

 看護師の山田さんから聞いた話その二。

 

 これは昼間の話だ。

 前日に患者さんが亡くなった病室の前を通りかかった時。

 開け放たれた病室の中から、声がする。

 低く響く男の声。

 覗いてみたが、誰もいない。

 慣れっこ、というわけではないが、病院に勤務している以上、こういう経験は時々ある。そのように山田さんは笑った。

 山田さんが病室を覗いている間は、声は聞こえなくなっていたそうだ。

 特に何もなさそうなので、山田さんが病室を離れようとすると、再び、声が聞こえた。

「にくぅぅぅぅ」「にくぅぅぅぅ」

 そういえば、この病室に入っていた患者さんは、亡くなる直前まで食事制限をしていた。

 最後の最後で、きっとどうしても肉が食べたかったんだろうな。

 そう思うと、山田さんは、なんだか切なくなったそうだ。

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