第13話 いいのよ

 看護師の山田さんから、いくつかの話を聞くことができた。

 今日はその中の一つを披露する。


 

 ある夜勤での出来事。

 時間は、午前二時くらいだったそうだ。

 突然、ナースステーションの前を勢いよく走っていく患者さんがいた。

「えっ、今の」

 山田さんは走って追いかけようとした。

 すると、先輩が、

「いいのよ!」

 と、引き留める。

 患者さんはあっという間に走り去ってしまった。

 どこの号室の患者さんかわからないけれど、病人があんなに走って体にいいわけがない。

「でも……」

 困惑する山田さんに、先輩は神妙な顔つきで言った。

「今、患者さんの足音、した?」

 そういえば。

 あんなに勢いよく廊下を走っていたのに、何も聞こえていなかった。

 先輩は、まるで自分に言い聞かせるように、再び言う。

「……いいのよ」

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