第11話 赤いべべ


 大学生には、肝試し好きな人が少なからずいる。

 新入生歓迎時期には、新入部員獲得とあわよくば恋人をゲットすることを目的に、肝試しが行われることがある。

 そのサークルも、例年、新入生を連れて肝試しをすることになっていた。


 サークル見学会の後、簡単な食事会が行われる。そして、その後、肝試しをするという流れである。

 その日、彼らが向かったのは、大学の近くにあるK神社である。

 このK神社“出る”と噂の神社で、その地域でも有数の心霊スポットとして知られていた。


 Мさんは、その時に不思議なものを見たという。


 Мさんは、怖いものが苦手で、肝試しには乗り気ではなかったそうだ。

「でも、先輩に無理やり連れて行かれて、仕方なく……」

 Мさんは語り始めた。


 思ったより小さな神社でした。

 住宅街のなかに、小さな山があって、その上に神社が建っている感じでした。

 人気のない神社は、霊とか関係なく、それだけでなんか不気味でした。

 先輩たちは、「大丈夫だって」とか言いながら、どんどん入っていくんです。

 先輩たちは、例年経験してることだから、怖くないかもしれないじゃないですか。

 でも、私たち一年生はほんと、もう怖くって。


 Мさんは、泣きそうな声で語る。


 社務所の電気は消えていました。

 神主さんも誰もいないみたいでした。

 それがより一層怖くって。

 先輩たちはワイワイやってるんです。

 でも、なんていうんですかね、時々、急にみんな一斉に黙ってしまうことってあるじゃないですか。

 シーンってなって。

 神社って、砂が貼ってあるじゃないですか。

 地面を踏む足音が、じゃりって響いて。

 そのとき、不意にみんな不安になったんだと思うんです。

 女の子の一人が、「もう帰ろう」と言いました。

 私たちは、みんなで同意しました。

 何だか、ここにいちゃいけない。

 そんな気がしたんです。

 これには先輩たちも納得したみたいで、みんなで神社の入口に向かって歩きました。

 鳥居のところまで来たときです。

「あつい」

 急に後ろから、小さな女の子の声が聞こえたんです。

 皆ぎょっとしました。

 バッと後ろを振り返ると、

 赤い着物姿の女の子が、さい銭箱の前に立っていました。

「あつい」

 女の子はそう言いました。

 もう、みんなパニックでした。何も言わずに走って逃げだす子もいたし、うおおおおおって叫びながら走る先輩もいました。

 みんな無我夢中で神社から逃げました。

 本当に、あの夜のことは今でも忘れられません。

 何人か泣いてました。男の子の中にも、泣いてる子がいました。

 先輩たちも、どうしていいかわからなかったみたいで、新入生に平謝りでした。 

 でも、不思議だったのは。


 そこで、Мさんは一呼吸置いた。


 私が見たのは、赤い着物を着た小さな女の子で、顔がおばあさんのように皺だらけだったのに、友達がみたのは、赤い着物を着たおばあさんで、顔だけ少女のようだったって言うんです。

 何人かで、見たものが少しずつ食い違うんです。

 これだけは、何でなのか、さっぱりわからないんですが……。


 Мさんは、それ以上、この話題について語らなかった。



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