第8話 後輩のF田くん



 霊感があると自称する後輩のF田くんはとにかく軽い。

 彼には時々心霊体験談を聞くのだが、あまりにしゃべり方が軽くて、まったく怖くない。

「あ? 最近の心霊体験っすか? そうすねぇ。あー、こないだSノ宮駅のトイレに入ったんすけど、和式の便器の中から、おっさんの生首が覗いてて、そいつと目が合っちゃって。あれ、マジ超ビビリました。血だらけで、頭欠けてるんすよwwwヤベーってなって、モチのロンで逃げたっすわwwww」

 こんな調子である。


 F田くんには、本当に霊感があるのか。

 霊をまったく信じていない私の友人Sは、F田くんの了承を得て、彼を某心霊スポットに連れて行くことにした。

 連れて行く場所の詳しい情報は何一つ教えなかった。

 あらかじめのリサーチで、F田君がその場所がどんな場所なのか、知らないことも確認済みだった。


 深夜の山道に車を走らせていた。

 友人SがF田くんとドライブするのはそれが初めてだったらしいのだが、予想以上にF田くんはウザかったそうだ。

「何か見たら伝えたらいいんすかwwww」

「そうそう。何か見たら教えてよ」

「あ、じゃあさっそくいいすか? さっき、林のところ、いましたよ、女が。首伸びてる感じの。首吊り? っすかねー」

「嘘つけよ」

「いや、マジいたんですってwwww お、あそこにも。田んぼのとこ。おじいちゃんいますわwwww」

 そんなやり取りが何度も続くので、友人Sは、正直うんざりしたそうだ。

 あまりに頻繁にそういうことを言い出すので、「やっぱ、こいつ霊感があるなんて、嘘だろ」と、そう思ったそうだ。


 くだんの霊スポットに到着した。

 そこは、古い寺で、石段が山門まで続いていた。

「着いたぞ」

 友人Sが車を降りると、F田くんも続けて降りた。

 と、同時に、F田くんは声を張り上げ、こういったそうだ。

「うわ! なにココ! ちっちゃいのがいっぱいいるぅ! 量多いっす! 動物? じゃない……子ども? 赤ちゃん? ワー! ヤベエ! 来てる来てる! 集まって来てます! これはマジでヤバい、Sさん!」

 F田君の言葉に、友人Sは背筋が凍った。

「赤ちゃん? お前マジかよ! なんでわかるんだよ!」

 F田君にせかされるまま、二人は、すぐに車に乗り込み、急いで逃げ帰ったそうだ。

 友人SがF田君を連れて行ったのは、水子供養を請け負っている寺だった。



 その後、二人の話を聞いて、私もそのお寺に行ってみた。

 怖いので、昼間に行った。

 確かに水子供養をやっているようで、本堂の右手側に大量の地蔵が安置されているゾーンがあった。

 新しい地蔵もあれば、古い地蔵もある。中には、いつのものか、苔むした丸い石も置いてある。

 新しい地蔵には、ポッキーやポテトチップス、ペットボトルのジュースなどが供えられていた。

 遺族の気持ちを感じて、なんともいえない気分になった。

 自分はすごく不謹慎なことをしている。そんな罪悪感を覚えて、お地蔵さん全体に手を合わせた。

 足に何かが触れた気がした。

 気のせいかもしれない。

 でも、背筋がぞわっとした。

 ごめんなさい、すぐに帰ります。

 そう呟いて、逃げるように帰った。



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