第5話 増える
美術部の先輩から聞いた話。
学校の怪談の定番のひとつに、美術室の怪談がある。石膏像が血の涙を流したとか、自殺した女生徒の描いた絵の目が動くとか、そんな話が一般的だ。
しかし、彼女が話してくれたのは、それとは毛色の異なる話だった。
彼女が二年生のときのことである。
翌週に絵画コンクールの提出期限が迫っていたので、先輩は遅くまで美術室にこもって絵を描いていた。
しかし、そこは女子高生。
他の部員が帰った後は、美術準備室の秘密の場所に隠してあるお菓子を取り出しては、ムシャムシャやりながら、アクリル画を描いていた。
彼女のお気に入りのお菓子はポテトチップス。
その日も、絵が一段落するまでに、ポテチの大袋を半分ほど平らげていた。
結構、食べちゃったなー。
そう思いながら、明日もまた食べようと、袋をゴムで止め、ポテチを秘密の場所こと、戸棚の奥に戻そうとした。
そこで、彼女は、ふと思いたって、袋の口にぐるぐると巻かれている輪ゴムに、マジックで一本の線を描いた。
誰かが開ければ、マジック跡はずれる。もし、誰かが袋の口をいじったなら、すぐわかる仕組みだ。
こういう場所に置いておくと、誰かが見つけていたずらをするかもしれない。何かされた時のための予防策だ。
翌日。
先輩はやはり、他の部員が帰ってから、準備室の戸棚からポテチを取り出し、それを食べることにした。
と、そこで、ポテチの袋が妙に膨らんでいるのに気がついた。
あれ? と思ってゴムを見る。線はそのままだ。ゴムを取って開けてみたが、中は何の変哲もない、ポテトチップスが入っているだけ。
気のせいか。
そう思って、彼女は、その日も絵を描きながら、ポテチをパリパリ食した。
そこそこ食べたが、まだ少し残っていた。
流石に、明日になったら湿気っているかな。
そうは思ったが、とりあえずゴムで口を縛って、また、戸棚の奥にしまった。
そして、さらに翌日。
ポテチを取り出してみて、彼女は思わず「え、なにこれ」と口に出していた。
また、昨日戸棚にしまったときよりも袋が膨らんでいる。
明らかに最後に見たときよりも、量が多い。
口を縛っているゴムには、やはり一本の線が繋がったまま描かれていた。
「何これ、気持ち悪い……」
彼女は、その日は、まったく手をつけずにポテチを棚に戻した。
次の日。
彼女は棚を開けて、ポテチの袋を確認した。
袋ははちきれそうなほど、ぱんぱんになっていた。
彼女は、ゴムのマジック跡を見た。
変わってない。
どういうことだろうか。
ポテトチップスが発酵して、ガスを出して膨らんだとか? いや、そんなわけはない。
彼女は、ゴムを外して、中身を確認した。
中には、何の変哲もない、普通のポテトチップスが詰まっていた。
ポテトチップスが自然増殖したとしか思えなかった。
彼女は、袋ごと、そのポテトチップスを捨てたそうだ。
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