第3話 人形


 夜中、自室で目が覚めた。

 まだ、夜中らしく、部屋の中が薄暗い。

 天井の左隅に、何か見慣れないモノがあった。

 日本人形が浮かんでいた。

 どうやら、その人形は、そこの空間に固定されているようで、全く動く気配はなかった。

 ──ああ、こりゃきっと夢だな。

 そう思って、私は、そのまま再びまどろみに落ちていった。

 小さな声が聞こえたような気がした。

 目を開けると、人形が先ほどよりも少しだけ近くに来ていた。

 私は、ぼんやりと「ああ……近づいてきているな」と思うのだが、なぜか「まあ、しょうがないか」と納得して、そのまま再び眠ってしまう。

 次に目を覚ましたときには、人形は、一メートルも離れていないところにいた。

 服装の細かいところや、人形の濃い睫毛などがはっきりと見えた。

 そうなってくると、私は何だか楽しくなってしまって「次はどのくらい近づくのかな」とまぶたを閉じるのだが、こういう場合に限ってなかなか寝付けず、しょうがなく、日本人形を観察しようと目を開けると、そこに人形はいなかった。

 私は、がっかりして、目を瞑った。

 顎に何かが触れた。

 かゆい、と思って目を開けると、件の人形が布団の上から私を覗き込んでいた。

 かゆかったのは、人形の髪の毛が顎に当たっていたからだった。

 ちょっとビックリしたが、痒いだけで実害がないので、そのまま寝る。

「次に目覚めたときには、人形が頭の中にめり込んでいたら面白いな」などと思いながら眠ったのだが、残念ながら、その後は人形は現れず、朝になってしまった。

 残念だった。


 

 朝、目覚めると、枕元に、数本の長い髪の毛が落ちていた。

 私は急に恐ろしくなって、声を上げた。

 その後、人形は出てきてない。

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