第19話 その意思は誰のため?
「……いらっしゃい、剛君」
「おっちゃん……?」
カケルに言われた通り入った奥の部屋。
校長室を彷彿とさせる雰囲気を持ったその部屋には、驚くべき人がいた。
「改めて自己紹介としよう」
俺の驚きをよそに目の前の見慣れた顔の人物が話し始める。
「私は金浜清弘。この組織、コーストを纏めるリーダーだ」
「コースト?というかそもそも、おっちゃんは何してるんだ」
「おや、それについての説明はカケル君から受けていないのかね」
こくこくと頷く。
それにしてもここ半月以上おっちゃんが食堂に顔を出さなくなって少し心配していたが、こんなところにいたとは。
一方幸は目の前の人物が誰か分からず、また連続する色んな事に困惑している様子。
思えばおっちゃんが最後に来たのは幸と出会う直前だった。
そりゃあ誰か知らないよな。
「我々コーストはレボルブの計画を阻止することを目的とした組織だ」
レボルブの計画。
あの時の青年は全人類を能力者にし、それを制御することで世界を良くするのが目的だと語っていた。
その通りいけば多少なりとも世界は良くなるのでは?
そう思う。
「確かに全ての人類が能力者となり、またそれらを制御し秩序を保つことが出来れば世界は良い方向へと転がるかもしれん」
しかしおっちゃんもそれは折り込み済みらしい。
「だが断言しよう、秩序は保てない。何故なら……」
(え……?)
おっちゃんが話を区切った次の瞬間。
……いや、違う。
話を区切ったのとほぼ同じ瞬間に、おっちゃんは俺の背後に回り込んだ。
そして話を再開する。
「儂のような能力者が存在するからだ」
何が起きたのか全く理解が追いつけず戸惑うことしかできない。
何だ?何が起きたんだ?
「儂の能力は時間操作と未来視。停止や加速、減速と時間を遡る行為や未来に飛ぶ行為以外で時間に関わることなら大抵操作できる」
時間停止。
それが、さっきの瞬間移動に等しい高速移動のからくりだった。
「自分で言うのもなんだが、儂は今全人類最強だ。同じ能力の保持者以外で、この能力には勝てない」
確かにこんなもの、素人目に見ても勝てるわけがない。
正面から襲いかかれば時間を止められる。
不意打ちを試みようにも未来視でおっちゃんはそれを把握しているからまた時間を止められるだけ。
「もしも儂より強い能力者が抑止力になったとしても、他を圧倒する強い力と高い地位を両方手に入れたその者は己の力に溺れるだろう」
そう思い、試しにそれだけの力を得た自分を想像してみる。
そこまで強大な力があれば、生かすも殺すも思いのまま。
殺す方を選択する自分は想像したくないが、選ばないとはとても言えなかった。
「そのような世界を認めないのが我々だ。他に疑問はあるか?」
「ないよ」
「そうか、では本題に移るとしよう」
「本題?」
これまでの話の内容が本題のつもりでいたが、おっちゃんとしてはまだ本題が残っているらしい。
「まず君たちには悪いが、これからはこの施設内で暮らしてもらう」
「え?」
再び唐突な内容に、幸がようやく声を出す。
「君たちはレボルブに襲われ、生還した。その時点でマークされている可能性がある故のことだ、わかってくれ」
「なるほど」
「そしてここからの話は、剛君と儂の二人の話だ。申し訳ないが、君は別室にいてくれ。廊下を出て左側二番目の扉の先に共有スペースがあるのだが、そこに皆集まっている」
「は、はい……」
幸がまだ頭の中で整理しきれていない様子で立ち去った。
無理もない。
というかあれ?
なんで俺は、こんな状況をスッと飲み込めているんだ?
「ここからは剛君、君の選択だ」
「俺の選択?」
「いかにも、君はこの組織にいてどうする?戦うのか、ここの保護下で暮らすか」
きっとこれは、俺の運命を分ける選択だろう。
戦わなければ、きっと安全だ。
カケルもとんでもない能力持ってるのが分かってるし、それこそおっちゃんだって人類最強だと自負する程には強いのだろう。
あの時間停止がその証明だ。
でも、俺はそれでいいのか?
俺が今欲しいものは何だ?
そう己に問いかける。
答えは案外、すぐに出るものだった。
祭りの時、俺は幸をちゃんと守れなかった。
最初の世界で幸を庇った時も、あのまま時間が続いた先ではきっと幸も殺されていた。
今の俺は、幸を守れない。
俺が欲しいのは……
幸を守るための、力だ。
だからこそ、戦おう。
幸をもう二度とあんな目にあわせないために。
「おっちゃん……俺、戦うよ」
「ほう、選ばせておいて言うのはなんだが、辛い選択だぞ?」
「構わないよ」
「そうか、では最後に一つ問おう。それ以上は君の覚悟に何も言うまいて」
それはつまり、俺の選択を認める旨の発言であると見て良いだろう。
ただ最後に一つ、おっちゃんは意味深な問いを俺に投げかけた。
「君は、何のために戦う?」
「100、検査の時間だ」
「えー……僕は検査なんて必要ないくらいに健康なんだけどなぁ。見れば分かるでしょ?」
「お前は自分の体に起きたことが異常だって自覚を持て」
「そうだね、それもそうか」
そう残して少年は部屋を去る。
その部屋の中には、一つの文書が残されていた。
『プロジェクト・ルーラー』
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