第17話 迅雷

「え?」


幸が疑問の声を返すのとほぼ同時。

俺はその手を掴んで駆け出した。


「剛!?どうしたの急に!!」

「こっからひたすら逃げる!」

「何で!?」

「生きたいからだよ!!……お前と!」

「い、意味わからな……」


意味わからないと言いかけたのだろう。

至極当然の事だが、それを言い終える前に幸はその理由を見てしまったようだ。


「何これ……」

「っ……」


それはあまりに悲惨な光景。

幾重に重なる屍の山。

二度目だとしてもその光景は、俺の心に恐怖と死を強く感じさせた。

これ以上これを見てるのはよくない。

俺はすぐにもう一度幸の手を握って走り出した。

前とは別のルートで逃げ出す。

いや、これは逃げていると言えるのだろうか。

逃げているのか、逃げているつもりで獰猛な肉食獣の縄張りへと踏み込んでいるのかもわからない。

でも、走るしかなかった。

そして花火がよく見える高台の近くへとたどり着いたころ。

そこには、死神が待ち構えていた。


「探したぜ、No.1さん?」

「No.1?どういうことだよ。あんたとは初対面なんだけど」


幸をの前に立ちはだかる形で後退りながら会話をする。

俺たちとあまり年が変わらないくらいの青年が、素手でそこに立っている。

素手だが何となくわかる。

ヤバい、殺される。

そして逃げろと本能が叫ぶ。

だが逃げても無駄だと同時に直感する。

その結果として、俺は幸を守るだけで後は何も出来ずにいた。


「答えたって無駄さ。それに、冥土の土産に悪いもん持ってくのは嫌だろ?」

「……殺すのか」

「そういう仕事なんでね。あ、どっちか殺さないでなんてのは聞けない話だぜ?」

「そうか」


背後の幸に目を向ける。

弱々しく震えていた。

今から誰かに連絡を入れようものなら即殺されそうな雰囲気だ。


「怖いか?死ぬの」

「そりゃあ、悔いしか残ってないよ」

「だろうな、俺だって死にたかない」

「……じゃあ、何でこんなことする?そもそもあんたら誰だ?」

「冥土の土産、そんなもんで良いのか?」

「良いよ、そもそもこんな状況でまともなもん持って行けやしないだろ」

「そりゃあごもっともで。じゃあ答えるよ」


目の前の青年は喋りだす。


「俺はレボルブって組織の人間だ。目的はこの世界のあらゆる人間を能力者に変えること」

「能力者?」

「超能力みたいなもんで、それを使うやつを能力者って呼んでる。色々ありすぎるからその説明は省くが、それを上手く活用して制御できれば世界は少なからず良くなるってのが俺たちの理念だ」


超能力やら組織やら、ますます話がわからなくなってきた。


「なら、余計にこうやって人を殺しまくる意味が見えないんだが」

「悪いがそれに関しちゃ詳細には知らん。ただ、活用して制御するって部分の制御の方に関わる内容だそうだ」

「そうか、感謝はしないぞ」

「結構、恨まれこそすれ感謝されるような理由はない」


スッと目を瞑る。

未来は良い方向には転ばなかった。

目の前にゆっくりと死が迫ってくるのがわかる。


(ごめん、幸……)


その無念だけを抱えて全てを諦めかけた瞬間…


「おい、目開けろ!!」


目の前で叫ばれる。

ゆっくりと瞼を開くと、そこには……




















「翔…!?」

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