第13話 二度目のはじめまして
「幸…」
そこに倒れていた少女。
少し遠いが、その姿を見間違える訳はない。
間違いない、穂ノ原幸だ。
嬉しい、心の底から。
今にも泣き出しそうなくらいだ。
だけどそれを押し込める。
俺と幸はあくまで初対面だ。
俺の感覚でつい昨日までは両思いだったとしてもだ。
…両思いで合ってるよな?
「どうしました?」
何事もないかのように話しかける。
今思えば、この時の会話はめちゃくちゃ鮮明に覚えている。
まあ体感として一ヶ月経ってないんだし、当然っちゃ当然だが。
前と同じく黒ヶ崎に行きたいけど財布がないとのことだった。
そしてここにも特に分岐点はなさそうだ。
一応ここで幸をスルーするか否かという大きすぎる選択肢があるにはあるが、その後幸と関わる道筋が見えないので論外だ。
前と同じ流れで電車に乗ることに。
…それにしても俺は馬鹿だ。
一度同じ時間を繰り返してまで…
こんな致命的で簡単な食い違いに気がつかないなんて。
………………
「だったら、俺の家に来ますか?」
「いいんですか!?」
電車の中。
ちょっとだけ前と流れを変えようと、俺から家の食堂に泊まることを勧めてみる。
こういう細かいとこから変えてみることにしよう。
「じゃあ…お願いできますか?」
「大丈夫ですよ」
それにしても敬語の違和感。
圧倒的なまでの違和感。
さっさと解消したい。
「あの…、じゃあ」
「しばらく一緒に暮らすわけですし、敬語やめときません?堅苦しいですし」
「ですね」
「じゃあ、よろしく!えっと…剛でいいの?」
「大丈夫、こっちこそよろしく…幸」
俺たちは握手を交わした。
…また乗り過ごしてしまった。
side???
「人生、何があるのかわからないか…」
「何よ…自分でもクサい事言った自覚くらいあるわよ」
バイクに乗って風を浴びながら声を交わす。
それにしても、今日の仕事は少しキツかった。
帰ったら寝よう…
「そのことはまた今度イジるとして、今はイジりたいわけじゃないよ」
「そうなの?」
「って結局イジるんじゃない!」
「あはは」
「いや、本当に何が起こるかわからないのかなって」
「じゃあ確かめてみる?」
「どうやって」
「あんたのこれは?質問にあたしがあり得るかどうかで答えるから、それで確認してみる?」
「よくわからないけど、まあいいや」
「じゃあ一つ目いくよ?」
「どうぞ」
少し思案する。
どうしよう。
もうちょっと考えて質問の内容を決定する。
「将来僕に恋人ができる可能性」
まあ、これは聞くまでもないけど。
あるよ、むしろないと困るよ。
ただできるなら…
「あるんじゃない?あんまし信じたくないけど」
「なるほど」
「じゃ、逆にそっちにできるかの…」
「あるわよ!できるわよ!」
言い切る前に返事が返ってきた。
「じゃあ最後に」
「…僕と君が恋人になる可能性」
「…」
あ、これはやらかした…
「な、なんでもない!ごめんごめん!」
「急になんてこと言うのよ!ゼロよそんな可能性!」
「ついでにあんたに恋人ができる可能性もゼロよ!こんなこと聞く奴にできてたまるもんですか!」
「むっ、それは酷いなぁ…雷落とすよ?」
「あんたが言うとシャレになんないわよ…」
こんな会話を繰り広げる日常が楽しい。
例え少しばかり歪んでいたとしても、これが僕の日常の一部だ。
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