第14話 二又の稲妻
そしてそこから、これまでと変わらない日常が始まった。
本当に何一つ変化のない日々。
けれどその一つ一つが最高に輝いていて、楽しくて仕方がなかった。
出来ることなら、何も起こらないでほしい。
このまま平和に、のんびり過ごしていたい。
狂わない歯車の上で、ずっとずっと。
だけどそれは叶わないらしい。
イブキは確かにあの夏祭りは避けられないと言った。
流石にそもそも夏祭りに行かない可能性を考慮してないことはないだろうし、夏祭りに行かない選択肢は違った形での破滅に繋がるのだろう。
だけどイブキは単純とも言った。
だからあの未来を打破するのはそんなに難しくないってことなのだと信じて、楽観的にならない程度に気を楽にして行こうと思う。
なんて言っているが、運命の分岐点はもう…
すぐそこに迫っている。
………………
暁と幸と遊びに行って帰宅した後。
その日の夜、確か俺は散歩に出かけたんだ。
今回もそうしよう。
何もしないのが原因って言われたのに、アクションを減らしちゃどうにもならない。
「幸、散歩行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
ガチャリと扉を開いて、ガチッと音がする。
歯車は、やはり狂いなく回っている。
……………
「すぅ~…はぁ~…」
ああ、空気が本当に美味い。
深呼吸一つ、俺は夜の待ちを歩き出す。
隣の鏡峰はそれなりに発展しているが、ここ黒ヶ崎はかなりの田舎である。
普通に田んぼや畑が広がっている。
家の食堂はそういうご近所さんとかから野菜を仕入れたりして成り立っている。
最近は不作だから一部食材を他所から持ってきたりしているが、基本的にはこの辺のものを使っている。
そんな夜の散歩の途中、俺は美しい空気に酔っていた頭を思い切り覚まされる事となる。
ドゴォンッ!!
落ちた、雲のない夜空から。
雷が。
すっかり忘れていた。
分岐点らしい分岐点、ここにあったじゃないか。
あの時俺は、音のした路地裏で血生臭いにおいを感じたんだ。
もしもあの時、路地裏に入っていたら?
至極単純な分岐だ、わかりやすい。
しかし脳裏にあの祭りの日の光景が再び映る。
また突然刺されたりしたらどうしようと、恐怖も覚える。
(けど、覚悟決めなきゃだよな)
死ぬ危険があったとしても、またあんな結末を迎えたくはない。
あの時、幸は泣いてた。
俺が初めて見た彼女の涙。
前はあんなことになってしまったけど。
次は、嬉し涙を見たい。
そう思い立って、路地裏へと足を向ける。
血の臭いが漂ってきた。
こんな単純なことで未来が変わるのかと疑念がない訳じゃない。
でも、変えなくちゃ。
もしここで死んだとして、またやり直せるのか確証はないけれど。
そうして踏み出した一歩の先には、一人の青年が立っていた。
この血のような臭いは気のせいなのではないかと思わせる程の、ごく普通の服装に身を包んだ青年だった。
その青年は静かに俺の方に振り向いて言った。
「こんにちは」
これまでの不安を全て消し去る程に、そこは普通の空間だった。
カチッ
…歯車は、狂いなく回っている。
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