第二章 疑い、そして復讐

第12話 再び

「…ホントに戻ってきたのか」


テレビを点けて、スマホを開いて、今の日時を確認する。

結果は何度見ても八月一日の午前。

そう、俺と幸が出会った日の朝だった。



ーーーーーーーー



「ところで剛君」

「人が人を食べる…というのはどう思う?」


そういえばこんな質問もされたっけ。

その質問に俺は、前と同じ答えを返した。


「なるほど…」


おっちゃんはそれにちょっと考え込んだみたいに反応する。


「あ、蕎麦出来たぞ」

「おー!」


まあ蕎麦が出てきた瞬間吹き飛んだが。


「美味い!」


そして質問の後、そばを景気良く啜るおっちゃん。

相も変わらず良い食べっぷりだ。


「やっぱり昼飯はこれに限るな」

「どうも」


普段通り店に来て、普段通り蕎麦を頼んで食う。

これまでの俺だったら何も思うことはなかった。

でも今の俺はあの惨状を経験して、時間を越えてこの時に戻ってきた。

こんな当然の日常のありがたみを強く感じる。

大切なものは失ってこそ気がつくという言葉の重みも、また強く感じていた。

だけど不思議な感覚だ。

この時間が嬉しくて仕方がない。

なのに、なのに。

時間が速く進んで欲しかった。

どうしてか、なんてのは自問ながら愚問だ。


「それじゃあ、帰るとするよ」

「ああ、また来てくれよ」

「言われずとも、また来るよ」


そう、答えは探すため。

この楽しい日常の中心にあった大きなピース。

そして俺が誰より愛するたった一人の女の子。

穂ノ原幸を。



ーーーーーーーー



そして鏡峰。

ここには買い物という名目で来ている。

しかし実際の目的は無論幸だ。

なんかストーカーみたいな事を言ってるような気がしなくもないが、それについては目を瞑ろう。


あ、そうだ、ここら辺で確か…


「あれ?剛?」

「暁」


暁だ。

ちょっとの間会ってなかったから、なんか懐かしい感じがする。


「剛は買い物?」

「ああ、暁はウィンドウショッピングか?」

「当たり、よくわかったね」

「はは、たまたまだって」


まあ実際は知ってたんだけど。


「ちょっと雑談でもしたいとこだけど、僕はもう行かなきゃ」

「またね、剛」

「ああ、またな」


着実に回収されていく。

あの日常のピースが。

だけど同時に悩んでしまう。

あんな結末を回避する糸口はどこにあるのか。

前とは違う選択をすべきとイブキは言っていた。

でもそれはきっと、常に前と真逆の選択をしろという意味ではないはず。

どこかに、きっと大きな分岐点がある。

その分岐点に、全く近づけていないことに。



ーーーーーーーー



買い物を終えていざ駅へ。

そこにはきっと彼女がいる。

別に俺を待っている訳ではない。

なんなら初対面になってしまうけれど、俺はその姿を探す。

そしてそこには彼女の姿があった。


「幸…」













































「100、呼び出しだ」

「100って呼ばないでよ」

「名前くらい誰にだってあるでしょ」

「僕の名前は…」

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