第10話 盥回しのBADEND

「俺、幸のことが好きだ」


後悔しないために。

想いを込めた最初で最期の告白。

この声が届いたのなら、もう思い残すことはない。


「…うん」

「私も、剛のことが好き」

「…え?」


想いだけ告げて、死ぬつもりでいた。

けれど俺はまだ生きていた。

そして幸からの返事を聞くことができた。


「誰よりも、剛と一緒が一番楽しい」

「何をやってても、何もしてなくても」

「剛がいるだけで違う、それだけですっごく嬉しくって、楽しくって」

「だから、剛が好き」


それが、幸の答え。

俺と全く同じ想い。

嬉しかった。

けれど、同時に悲しさも押し寄せてくる。


「…だからさ、一緒にいようよ」

「ずっと、死んじゃうまで一緒」

「はは、もう死にそうだよ、俺」


押し寄せてきた悲しさ。

それは、もっと幸といたかったという後悔。

幸もそれを望んでくれるというのに。


「それは早いよ、早すぎるよ…!」

「……ごめん」

「バカ…!」

「……」


声も出にくくなってきた。

突き刺された部分が痛いという感覚も消えていく。

俺にあるのは、安らぎだけ。

幸の腕の中で、生を終えられる。

その事実を前にして得られた安らかさのみだ。

けれど俺は最後の力を振り絞ってもう一度言葉を発する。

どうせならあと一言、伝えよう。


「さ…ち…」

「ありが…」


ギギッガッガッ…ガンッ!


ありがとう。

その一言を言おうとした。

言おうとした瞬間に、音がした。

何かが崩れる音。

変なものを噛んだ歯車のような音。

その瞬間、俺の意識は闇に落ちた。




ーーーーーーーーーーー








「…!?」

「ここ…は?」


真っ白な空間。

無限に広がる地平線。

自分が向く方向すらもわからない。

足元にある地に足を着けている感覚だけが、俺に立っているという現実を教えてくれた。

そんな現実離れした空間に俺は立っていた。


「おっ、ここにお客さんとは」

「珍しいこともあるんだね」


突然一人の男が歩み寄って来る。


「誰だ?」


さっきの祭りの時の事もあって気を引き締める。


「ああ、安心して」

「僕は急に刺したりしないよ」

「そ、そうですか…って」


なんで俺があの時刺されたって事を知ってるんだ?

たまたまか?

いずれにせよ警戒を緩めずに接する。


「絶対怪しんでるよねその顔…」

「まぁ無理もないか」

「じゃ、自己紹介といこう」


何もする様子はないようだ。

流石に少しは警戒するが、多少気を緩める。


「僕はイブキ」

「ずっとここにいるんだ」

「ほら、君は?」

「ああ、お、俺?」

「そうそう、あと敬語は大丈夫だよ」

「俺は大風剛」

「なるほど、剛ね」


自己紹介を終え、いざ本題といった感じでイブキは更に言葉を紡ぐ。


「さて、反省会といこうか」

「は、反省会?」

「そう」

「剛、どうして君が」


意味がわからない。

なんの反省をするんだ。

しかしその意味を、イブキは非常に分かりやすく伝えてくれた。


「君が、何故あんな結末を迎えてしまったのか」

「その、反省会をしよう」

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