第9話 急転直下の想い

「幸!!」

「へ!?」


ヤバい、ヤバいヤバいヤバい。

何かわからないけどとにかくヤバい。

コンマ一秒でも早くここを離れろ!


「ちょ、剛!?どうしたの!?」

「こっから逃げるんだ!じゃないと…なんかヤバい!」

「何かってなに!?てか手!手!」


グイっと幸の手を引いて俺は全速力で走っている。

女の子と手を繋ぐのが初めてだとか、そういうのは今更どうだっていい。

ただ、逃げる。


「逃げるってどこに!」

「…わからない!でもこの嫌な感じが消えるまで!」


曖昧だ。

もしかしたら、世界の果てまでこの感覚は消えないかもしれないのに。

そして走って、盆踊りが行われていた場所までたどり着いた。

そこで俺たちは…信じられないものを見た。


「なんだよ…これ…」

「…………!!!」


そこには、凄惨な光景があった。

屍がいくつも並び、真っ赤な血溜まりがいくつもあった。

その光景に、俺たちは言葉を失った。

そしてその奥で新しい血溜まりを形成しながら人影がこちらへとやって来る。


「はぁ、やっとお出ましね」

「!?」


強烈な威圧感。

怖い。

ホラー映画とかで感じる怖いとかそういうのじゃない。

殺される。

明確な殺意。

目の前に迫る死。

向こうに積み上げられた屍の中に自分が入る。

そう、死への本能的な恐怖だ。


「時間をかける理由もないし、さっさと終わらせるわね」

「苦しませるのは趣味じゃないし」


そして目の前の女は動き出す。

動きはギリギリ目で追えた。

ターゲットは…幸!?


「っ…幸!!」

「えっ?」


幸を庇った。

思考する暇なんてなかった。

死ぬのは怖かった。

なのに俺は、幸を庇った。

死にたくない、皆とはもっと遊びたかったし、あの食堂も継ぎたい。

けどそれ以上に、幸に死んでほしくないと、心がそう叫んだ。

そして体も、それに釣られて動いていた。


「…剛!!」


幸の叫び。

それには悲痛さすら感じられた。


「なんで…!」


増していく痛みの中、世界が揺らぐような感覚がした。

そして、気がつけば目の前にはもう一人、人が立っていた。

そして、呟く。


「はぁ、ダメだな」


そして俺たちは遥か後方へ弾き飛ばされる。

なんだ、何が起きた!?

いや、理解より先にどうするかだ。

…どうもできない。

世界が揺らいだ次は歪む。

視界も狭まっていく。

どうやら、もう駄目らしい。

でも、たった一つ。

死の間際に一つだけ理解できた事があった。

せめてそれだけは幸に伝えたい。

本当は、もっとちゃんと伝えたかった。

見上げた状態じゃなくて、ちゃんと向き合った状態で。

でも、言うしかない。


「……幸」

「大丈夫なの!?喋れる!?」

「ごめん、多分無理…」

「嘘…でしょ?」


首を横に振る。


「だから、最期に一言だけ…」

「俺…」




















「幸のことが好きだ」

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