第6話 歪んだ雷鳴

幸に散歩に行くとだけ伝えて家を出た。

この町の夜風はそれはそれは気持ちいい。

ボケーっと一日を振り返りながらその辺を歩いているだけで、心が安らいでくる。


(楽しかったな、今日)


今日は朝から幸や暁と遊びに行った。

幸と遊びに行くのは初めてだったが楽しいものだった。

暁も楽しそうだったし、これからは三人で遊ぶことも増えそうだ。

真介とも気が合いそうだし、四人かもな。

今日一日を振り返って歩く。

時間は止まっていると錯覚させられるほどゆったりと流れていた。

…そんな優しい時間が一瞬にして消し飛ぶような事が起こるなどと、俺は想像もできなかった。


ドゴォンッ!!!!


「!?!?!?!?」

(雷!?)


突然、とても大きな雷鳴が鳴り響いた。

夜の静寂を真っ二つどころかギタギタに切り裂いたその音は、ゆったりとしていた剛の心に驚きを与えるには十分すぎる程だった。

しかも、それだけじゃない。

そう、今の雷は…


(どこも光らなかった…!?)


そう、どこも光らなかったのである。

本来雷とはあの光の後に遅れて音がやってくる。

音と光の速度の差を考えれば至極当然のことだ。

だが、そんな自然の秩序を目の前の現象はいとも容易く無に帰した。

しかも今は雨も降っていない。

雨が降りそうな様子もなかった。

光に関しては俺が見逃していたということで説明はつくが、ここまでの轟音が近くに聞こえて、雷が落ちる予兆すら感じられなかったのはおかしいことだった。


(雷が落ちたのはこっちか…?)


俺はそこに足を向けた。


……カチッ

また、歯車の回る音がした。



別にこの先で何かがあったとしても問題はない。

自分で言うのもなんだが、俺は身体能力に関しては図抜けているからだ。

理由はわからない。

まあ、記憶を失う前の俺が色々やっていたのだろう。


(そろそろか…)


俺はその近くにたどり着いた。

するとすぐに、そこの異様さに気がついた。


(なんだこれ、臭い!?)


血生臭いにおいが漂ってきた。


(なんだ…これは…?)


俺はその先に足を踏み出すのを躊躇った。

どうすべきか。

このまま戻るか、ここから先に行くか。

俺は……





この足を家路に向けた。

これまでの事は全てたまたまだ、そういうことにしておこう。


…ガチチチッ

また、歯車の回る音。

今度は少し、歪な音だった。

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