第7話 変化の兆し
あの雷の日の翌日。
あれからも、日常は何の変化もなく流れていった。
やはりあれは俺の勘違いか何かだったのだろうか?
まあ、いいや。
今日は…というか今日も遊ぶことになっている。
メンバーは暁、幸、俺だ。
昨日と全く同じメンバーだが、これまでも大抵俺と暁だったところに幸が加わったのでこうなるのが自然だろう。
さて、今日はというと…
「美味しい!」
「だね」
「ああ、久々に食ったけど、ここのうどんは最高だよな!」
駅前の美味いうどん屋でそこの絶品うどんに舌鼓を打っていた。
美味い、本当に美味い。
うどんの専門店というだけあって、俺が打ったうどんとか比較にならないくらいには美味い。
それは紛れもない事実だ。
そう、わかりきったことなのだが…
「剛のうどんより美味しい!!」
「!?!?!?!?」
言われてしまった。
テーブル席で向かい合った真正面からちょっとドキッとするくらいめちゃくちゃいい笑顔で。
本人に悪気はないし、それは事実なのだ。
でも、言われるとなんか嫌だ。
何気ない「剛のうどんより美味しい!!」が、俺の心を深く傷つけたのだ。
「幸ちゃん?それはさ、言わないでおこう?」
「え?あ…」
暁に指摘されて、ようやく俺が深い傷を受けた事を察知した幸。
「剛…ごめん…」
「き、気にすんなって…」
ちょっと気まずいまま、食事は続いた。
とはいえそんな雰囲気がいつまでも続く訳でもない。
いつの間にか気まずさは消え失せ、いつも通りの俺たちになっていた。
そして普通に遊んでいたら突然、暁の携帯から着信音が鳴り響いた。
「ちょっとごめんね」
「おう、どうぞ」
「もしもし」
「……!?」
「…はい、わかりました」
暁はなにやら驚いた様子で電話を切った。
そして俺たちに一言…
「ごめん、用事ができちゃって…」
「もう僕は帰らなくちゃ」
「そうなのか?」
「うん、残念だけどね」
「ふーん…バイバイ、暁君」
「剛も幸ちゃんも、バイバイ」
「おう、またな」
そうして暁と別れた俺たちは、とりあえずそのまま遊び続ける事にした。
そしてその翌日。
俺は暁にLINEを送った。
暇だったし、遊べるかどうかが気になったからだ。
しかし暁からの返事はない。
既読すらも付かないまま、更に翌日。
結局反応はなく、そのまた翌日も何もなかった。
直接聞こうにも、俺は暁の住所を知らないから聞きに行けない。
幸も暁が気になるようだったが、幸は「まぁ、大丈夫なんじゃない?」と言っていたので心配はしていなさそうだ。
そしてそんな幸から提案があった。
「じゃあさ、二人で遊びに行ってみない?」
「…なるほど?」
「ほら、いっつも暁君と剛と私だったし」
「暁君が嫌いとかじゃないけど、たまにはありなんじゃないかな?」
「じゃあ、そうするか」
と、軽い感じで決定した。
…いや、ちょい待てよ。
これ、もしやデートというものなのでは?
割かし重大なことに今さら気がついた。
少し心のなかでオロオロしていたが、ある思考が頭に浮かんだのと同時にそれは終わった。
(まあ、幸だし別にいっか)
(それになんつーか…)
(……嫌な感じはしないし)
…この心境の変化に気がつけない俺は、ひょっとすると鈍感なのかもしれない。
ーーーーーーー
「…なるほど、そういうこと」
「辛いか?」
「そりゃあ、決して嬉しくはないさ」
「だけど、これが運命なんでしょ?」
「じゃ、仕方ないよ」
「覚悟は決まってるようで何よりだ」
「じゃあ、頼んだぞ」
男はドアを閉じて少年の部屋から出ていった。
そしてそのドア近くの表札のような札には、小さくこう書かれていた。
被験体100号
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