第4話 いつも通りの日々
「フンッ」
バタッと背中から全身を切り裂かれた体が鼓動を止めて倒れる。
その周辺には、幾つもの屍によって、一つの山が築き上げられていた。
「もしもし」
「そっちは順調か?」
「ああ、掃討完了してるよ」
「そうか、ならとりあえず今回の襲撃はこれで終わりだろう」
「本部に集まれと、全員に連絡を回してくれ」
「了解」
「あ、いつも通り処理は頼んだぞ」
「言われるまでもねぇよ」
「それもそうか」
そしてそこに立つ人…
いや、人の皮を被った鬼神とでも言うべき者は、静かにその場を立ち去った。
ーーーーーー
…夢を見ている。
俺の記憶に残る限り最初の日から、ずっと。
それも欠かさず毎日だ。
今日とて例外ではない。
ただ、その夢には少々もやがかかってよく見えない。
理解できるのは、ただそこで凄惨な光景が繰り広げられているということだけ。
ノイズのように響く声と、モザイクに等しいもやを貫通して少しだけ見えてくる景色が、その情報だけを伝えていた。
そしてその音が止まった瞬間…
俺は夢から覚める。
「…おはよう」
「おはよう、剛」
ああ、そうだった。
親父が少し前までいたから、その癖でいつも挨拶をしているのだが、今は幸がいることをすっかり忘れていた。
「あ、そうそう」
「前、だし巻き最後まで食べられなかったでしょ?」
待て、なんだこの芳醇な香りは。
そしてこの話の流れはまさか…
いや、そんなはずはない。
さっき夢から覚めたところだ。
夢から覚めたと思えば今度は悪夢に落とされるとかどんな拷問だ。
しかし、そんな思いとは裏腹に…
「はい!食べてみて!」
「………………」
「あれ?なんでそんなに安らかな顔してるの?」
俺は自らの死を悟った。
暁、俺が死んだら…
こいつのだし巻きが不味いことを本人に率直に伝えてくれ…!
頼んだぞ…!
「じ、じゃあ…い、いだだきまーず」
「なんかめちゃくちゃ音濁ってるし…」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
俺は全力で、だし巻きに食らいついた!
当然俺もただで死ぬ気はない。
だし巻きの乗った皿の横には、トマトジュースが置かれている。
俺の作戦はこうだ。
あの不味さに襲われる前に全部飲み込んで、トマトジュースで上書きする!
さあこい!
だし巻き玉子!
「ゴクッゴクッゴク…ムグッ!?」
(不味っ!?)
…俺の作戦は意味をなさず、だし巻きは見事トマトジュースを貫通して襲い掛かってきた。
そしてもう一つ、俺は大きすぎる間違いをしていた。
俺は幸のだし巻きの味を誤魔化すことだけを考えてトマトジュースを選択した。
それがそもそもの間違いだった。
幸の作ったものだろうがなんだろうが、トマトジュースとだし巻きの相性はお察しの通りだ。
確かにこれの不味さはトマトジュースにより多少和らいだかもしれない。
ただトマトジュースとだし巻きの相性が最悪だったせいで、俺の口内は以前を遥かに凌駕する混沌と地獄に見舞われていた。
「ご、剛!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫…致命傷だけど…」
「トマトジュースと卵って…」
「もしかして剛ってかなりアホ?」
「グハッ!」
…その追撃は、俺の胸を見事に撃ち抜いた。
「あ、そういえば」
「自分用にも作ったのに、食べるの忘れてた」
「食べよっ」
ハッ、そうだ!
最初からこうすれば良かったんだ…!
本人が食べれば、本人がこれのヤバさに気がつく!
そうすれば、この地獄は終わる…!
「うーーん、特別美味しくはないけど、不味くはないかな?」
「……え?」
いやいや、こいつの味覚どうなってんの?
なんなの?味覚ないの?ボロボロなの?
「また今度、作るねっ」
「…はい」
今度こそ完璧な作戦を立てなければと、俺は強く胸に誓った。
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