4-2 再戦 VS上京華

 深夜の公園には人気がない。もちろん、人気がないからこの場所を選んだのだ。

 そういうわけで約束の時間になった。上京は律儀に五分前集合をしていた。


「遅い」

 そういう僕は十秒前集合だった。おかげで上京に叱責される羽目になった。


「時間通りだ」

 腕時計を見せて抗議する。だが上京の憮然とした表情は変わらなかった。

 気難しい恋人か?


「悪かったよ。せっかくおめかしして来てくれたのに待たせて」

「おめかしじゃない。これは魔導衣」


 もちろん知っている。上京は普段の制服姿ではなく、薄手の白いローブを羽織っていた。夜の月明かりに生地がキラキラと輝き幻想的な雰囲気を醸し出している。


 ……まぁ、白いブレザーから白いローブに代わっても印象に大きな違いはないのだが……これは言わないほうがよさそうだ。


 無論、魔導衣を着てきたということは、彼女は全力を出すつもりなのだろう。魔導衣は魔術師個人のために作られたオーダーメイドの礼装だ。生地の種類から裏地に刺繍された文様、果ては袖の長さやボタンの直径に至るまで全てがその魔術師の力を高めるためにデザインされている。


 魔導衣を身に着けた魔術師の力は数倍にも跳ね上がるとも言われる。

 厳しい戦いになるだろう。やっぱり初戦で勝ちたかったな……。


「今日は、あのやかましい猫娘はいないのね」

「夜は墓場で運動会なんだよ」

「なにそれ?」

 自分で話を振ったくせに……。


 ともあれ。

 スマホが鳴る。上京からの対戦申し込みだ。僕は躊躇いなく受ける。

 カウントダウンが始まる。


「次こそは」

「次こそ」

 互いの声が重なった。さん、に、いち……。


「"偽造のイミテーション・紅玉ルビー"!」

 僕は初手でルビーを切った。左手から火球を連続で放つ。これには上京も意表を突かれたのか、杖を抜いて魔術で障壁を作り真正面から受け止める。


「ちっ……そんなに早く使っていいの?」

「効果時間内に倒せればな!」

 左手から燃え上がる炎の形を整え、巨大な手裏剣状にした。腕を振るって上京へ投げつける。


「っ! 大きい!」

 上京が横へ飛んで避けた。詠唱を省略した魔術の盾では耐えられないと判断したのだろう。その決断は正しい。


「"Winter’s冬の荒 ragged handsくれた手よ"!」

「"偽造のイミテーション・蛋白石オパール偽造のイミテーション・金剛石ダイアモンド"」

 体勢を崩したまま上京が杖を振る。すかさず僕も盾を展開して防いだ。透明なこぶしで思い切り殴られたような衝撃が走る。ビクトリアの一撃より重いっ……。


「盾構えたままで攻撃できないのは知ってる!」

 膝立ちの上京が荒々しく呪文を放ち続ける。冷気のつぶてが雨あられと降り注ぎ、僕は姿勢を低くして受け止めることしかできなかった。

 ……わけではない。


「ジョニーにやられた攻撃は対策済みだぞ!」

「え……あっ!」

 上京の攻撃が不意に止んだ。彼女は背中に炎の手裏剣を食らっていた。


「返ってきて……残存する魔術かっ」

 攻撃を受けた彼女が地面を転がる。残存する魔術はその名の通り成立してから魔力の供給が切れてもしばらく残り続ける類の魔術だ。術者が死んでも消えない強力な呪いが典型的だが実はこうして手軽に扱うこともできる。


 上京は歯ぎしりして立ち上がった。魔導衣の防御機能のせいで大したダメージにはなっていないようだ。冷気を咄嗟に背後へ回して防御もしている。

 だが、攻撃のラッシュは防いだ。このまま攻めることができる。


「"偽造のイミテーション・藍玉アクアマリン"!」

「"Winter’s冬の痩せ lean limbこけた腕よ"!」

 僕が水の剣を、上京が氷の剣を振った。ぶつかり合って鍔迫り合いになる。


「水で氷に勝てるとでも!?」

 上京の魔力が僕の水を侵す。流水が凍りつき、剣にひびが入る。

 無論、僕も考えなしに剣を出したわけじゃない。


「ルビーの制限時間が終わってないことを忘れたのか?」

 水の剣へ左手を重ねる。親指の指輪はまだルビーのままだ。炎の魔力を剣へ流し込んで水温を上げる。氷が解け、水の剣は熱湯の剣へ変わる。


「くっ……この程度の熱!」

「狙いはそこじゃない」

 上京の目に一瞬困惑が浮かぶ。


 途端、水の剣が爆発した。熱湯が上京へ突き刺さる。


「熱っ! くそっ! なにっ!?」

 一方、僕はダイアモンドの魔力から作った盾で熱湯を防いでいた。……少し顔にかかったけど。


「水蒸気爆発だよ。理科の時間にやるだろ。物質は基本液体より気体のほうが体積が大きい。だから急激に温度が上がると体積も突然増えて爆発する」


 僕はそう言いつつ、再び左手に魔力を集める。無防備な上京へ向けて全力の一撃を放つために。

 魔力を人差し指へ集める。強く圧縮し、威力を最大限まで高めた熱のレーザーを……。


「食らえ!」

「"Three winters cold三度の寒い冬が……"!」

 熱線が飛ぶ。上京へ辿り着くかに見えた。

 だが、直後、彼女の目の前で吹雪が巻き起こった。


「"……have from森の木々 the forests shookから三度も夏の華 three summers’ prideやぎを振るい落とす"!」

 吹雪は三枚の壁になって熱線を受け止める。一枚、二枚とレーザーは貫くが、三枚目で白い渦に掻き消されて見えなくなった。


 あの呪文は、前に僕と戦ったときの……。


「攻撃用の呪文を防御に転用するとは……」

「逆よ……元々防衛用の魔術なの、これは……」

 上京が息を荒げて立ち上がる。真っ白な魔導衣が砂埃に汚れてしまっているが、大きな怪我はない。


「残念だったわね。もう時間切れ」

 指輪が魔力を失う。ルビー、ダイアモンド、アクアマリンの制限時間が終わったのだ。


「あなたの魔術はなかなかよ……それは認めてあげる。一人であれだけの種類の魔術を使えるのは便利ね。素材さえあれば最強という宝石属性の特性をよく生かしてる」

「……お褒めにあずかり光栄だよ」


「でも、あなたは根本の欠点を解決できていない」

 上京が杖を振った。オーケストラを指揮するように。周囲の気温が一気に下がる。


「宝石魔術は宝石がなければ意味がない。あなたはその場しのぎの偽物を用意しているだけ……偽物の魔術に過ぎない。だからメッキが剥がれたらそれっきり……本物のダイヤを持たないあなたにこの攻撃を防ぐ手段はない」


「……やってみろ」

「いわれなくてもそのつもり。"Dreading the冬の到来 winter’s nearに震えろ"」

 上京が詠唱した。瞬間、周囲の空気が固まる。


 息ができない。肺を膨らませても空気が入ってこない。呼吸の空振りをしているような感覚……。


「私も科学の話をしようかしら。詳しくはないけど、温度は分子だか原子だかの振動らしいわね。振動が速いと熱い、遅いと寒い。だから氷属性の魔力には少しだけ、ほんの少しだけだけど、作用したものの時間を止めるという意味付けがあるの」


「がっ、ぐっ……」

「いまは周囲の空気に魔力を通して固定している状態。あなたの肺がいくら頑張っても、動かない空気を吸うことはできない。そのまま酸欠で勝負がつくわ」


 くそっ……スケールがでかいくせに戦法としてはみみっちい魔術使いやがって……。

 だが、確かにピンチだ。ルビーの炎で空気の温度を上げれば固定も解除されるはずだが……いまはそれが使えない。

 どうしたもんか……。


「い、いっ……」

「あぁ、降参するならスマホからお願い。口約束は信じない主義なの」

「"偽造のイミテーション・……電気石トルマリン"!」


 左人差し指の指輪が魔力を帯びる。左腕を振るうと周囲に電磁波が走った。僕は電磁波で自分の体を吹き飛ばして上京から距離をとる。

 彼女から離れると再び呼吸ができるようになった。新鮮な空気が肺を満たす。


「げほっ! はぁっー……死ぬかと思った」

「あら。抜け出せたわね」

「当たり前だ……」

 僕はふらつく頭で立ち上がって言った。


「空気を止めるなんて大掛かりな魔術あんな短い詠唱でできるわけない。はぁ……十中八九魔術の有効範囲を狭めて詠唱が短くて済むようにしている。だから離れればこの通り」

「そうね。でもあなたは、これでまたひとつ指輪を浪費した」

 上京は余裕そうに肩をすくめて見せる。


「指輪は十個。一日に一度しか使えない。長期戦になればなるほど、あなたが取れる戦略は減って不利になる。一方、私の魔術にはそういう制約はない。……これが本当の魔術師よ」


「そうかい……まぁそうやって大口叩いていろ」

「"Winter’s冬の荒 ragged handsくれた手よ"」

「またかよ!」


 上京の指揮に合わせて冷気の塊が飛んでくる。僕は走ってなんとか攻撃をかわす。

 上京の言い条はともかくとして、このままだとジリ貧なのは事実だ。腕時計を見る。現在十一時五十七分。残り三分を逃げ回って稼ぐのは無理だろう。あと一発は大きなやり取りをしなければなるまい。


「"偽造のイミテーション・瑠璃ラピスラズリ"!」

 右親指の指輪を宝石に変える。向こうが冷気ならこっちは大気だ。目の前に春の温かい空気を集めて圧縮し壁を作る。

 透明な攻撃が透明な盾にぶつかって爆ぜた。


「また防御? 私は別にいいけど、あなたは貴重な時間を守りで使い切る気?」

「うるせぇ。"偽造のイミテーション・黒玉髄オニキス"!」

 右小指の指輪が真っ黒な宝石に代わる。ブラックオニキスだ。こいつの司る属性は闇。


 僕は右腕を突き出した。目の前に黒い球体が現れ、上京の呪文を吸い込んでしまう。闇はその性質からわかるように吸収の特性も兼ね備えた属性だ。


「闇属性の魔術っ……いくつあるのよっ」

「返す!」

 黒の球体からさっき吸い込んだ呪文を跳ね返した。目に見えない冷気の塊が上京を襲う。が……。


「自分の呪文にやられる間抜けじゃない!」

「だろうな!」

「……っ!?」


 上京が反射的に杖を振った。彼女の目の前に魔術障壁が出来上がるのとほとんど同時に、目に見えない小ささの光の魔術弾が殺到する。


「"偽造のイミテーション・水晶クリスタル"……って、気づかれた!?」

「闇属性の呪文を貫通させたのね。吸い込むかどうかは自由自在ってわけ? でも甘い!」

「くそっ……"偽造のイミテーション・柘榴石ガーネット"!」


 こうなればもう手当たり次第だ。僕は左小指の指輪をガーネットに変える。血流を魔術で速く太くして無理やり身体強化する。右手の魔力で光の剣を形作り、地面を蹴って上京へ突っ込む。


「バカのひとつ覚えね! "Winter’s冬の痩せ lean limbこけた腕よ"」

「これが結局一番いいんだよ!」

 上京も剣を作って僕を迎え撃つ。再び鍔迫り合いの格好だ。


「指輪の残りはあといくつ? それ以前に、魔力が切れてきたかしら……ね!」

「ぐあっ!」

 上京が氷の剣を大きく振り上げて僕を弾き飛ばした。体勢が崩れた状態で間合いが開いてしまう。


「"Stormy gusts冬の日の身 of winter’s dayを切る烈風"!」

 彼女の周りで風が吹きすさぶ。寒風は渦となり、速さを増して刃となって僕に迫る。

 時計を見た。時間は……十二時一分!


「これで終わり!」

「……"偽造のイミテーション・金剛石ダイアモンド"」

 回転する刃が幾重にも降り注ぐ。だが、上京の攻撃は全て僕の障壁に防がれた。


「……え?」

「"偽造のイミテーション・紅玉ルビー"」

 左手に収束させた魔力を一気に放つ。鋭い熱線が今度こそ上京へ迫る。

 もうさっきの防護呪文を唱えている余裕はないはずだ。これで決める!


 熱線が上京へぶつかる直前、爆発が起きて白い煙があがった。視界が遮られる。


「マジかよ……」

 煙の中から現れたのは樹氷だった。ミニマムサイズの樹氷が上京の周囲を完全に覆いつくしている。熱線は樹氷の一本を焼き倒していたが、中心部には至らない。


「この規模の魔術を詠唱なしで……?」

「……残念だったわね、石見高人」

 樹氷が消えて上京が現れる。肩で荒く息をしていた。やはり、詠唱なしでの大規模魔術は負担が大きかったようだ。


 だが、上京は勝ち誇った顔をしている。勝負が決まったかのような顔だ。


「前回の戦いで、あなたが使えないはずの指輪をもう一度使ったのは覚えてるわ。その対策と謎解きをしてないとでも思った?」

 彼女は僅かに残った樹氷にもたれかかりながら言った。


「あなたの指輪は一日に一度三分間しか使えないという制約がある。これを聞いたら普通一度の使用から再使用までに二十四時間のインターバルが必要だと思う。誰でもね。でも違う。あなたはわざと不正確な情報を言いふらしその通りに使うことで手の内を隠してたのよ」


「へぇ……どんな手の内なんだ? 名探偵上京華の推理を聞きたいね」

「一日に一回三分間という制約はある。ただし……時間制限のリセットは二十四時間後じゃない。日付が変わったときよ」

 上京はふぅと小さく息をつく。


「つまり指輪を使ったのが朝の四時だろうが夜中の十一時だろうが次の零時がくれば再使用が可能になる。だからあなたは夜中に戦うんでしょう? もし指輪を使い尽くして追いつめられても日付が変わるまで粘ればいい。相手の意表もつけるしね」


「……そうだな」

 僕はどっかりとその場に座り込んだ。ため息をついて頭を掻く。


「その通りだ。僕の指輪は日付が変わるごとに使用時間がリセットされるようになってる。そっちのほうがわかりやすいと思って魔術式を組んだんだけどまさか#SSsの役に立つとはね」


「でも私は見抜いたわ。もうあなたには打つ手がないでしょう。炎を司るルビーはもう使った。三度目はない」

「そうだな……でも」


 僕は左手をかざした。上京が怪訝そうな顔をする。


「ここで問題だ」

「……は?」


「僕の指輪は十個ある。でも今回の戦いで二つ使わなかった。ひとつは琥珀だ。氷の魔術に植物は相性が悪すぎるからな。では……もうひとつはなんでしょう?」

「もうひとつ……?」


 彼女は首を傾げた。まぁ、そうだろう。この指輪はこれまで戦った藤堂、ジョニー、ビクトリア、そして一度目の上京のどの相手にも使っていない指輪だ。正体を知っているはずはない。


「……指輪の中に五大属性は揃っているはず。炎のルビー、水のアクアマリン、金のトルマリン、木の琥珀、土は……ダイアモンドが近いかしらね。メジャーな特殊属性である光はクリスタルが、闇はブラックオニキスが担っている」

 上京は律儀に指を折りながら数え始めた。彼女が言ったので七つだ。


「身体強化用のガーネット、ラピスラズリは大気を操作する魔術……あと何かある?」

「あるじゃないか。特殊属性の中でも特にレアなやつが残っている」

「……思いつかないわね」

「じゃあ見せてやるよ」


 僕は左手に魔力を込める。小指の指輪がきらめく。


「"偽造のイミテーション・蛋白石オパール"」

「オパール……オパールの魔力は……あっ」

 上京が気づいた。だが、彼女が声をあげたときにはもう背中に攻撃が突き刺さっていた。


 僕が放った炎の手裏剣が。


「なんでっ……」

「オパールの魔術は時空を操る。その攻撃は数分前に指輪に記録しておいた過去の攻撃だ!」


 上京の背中を炎が焼く。彼女は意識の外からの攻撃に全く対処できていなかった。


「過去の再生っ……! でもっ、この程度の規模っ……!」

「規模はしょぼいが隙を作るには十分だろ!」

 僕は立ち上がって左腕に魔力を集める。ルビーの制限時間はまだギリギリ残っている。


 もうひとつ手裏剣を作る。背中に意識を取られている上京へ投げつける。


「今度こそ終わりだ上京!」

「っ!!」


 上京へ攻撃が迫る。瞬間、彼女の背中から翼が生えた。あれは……冷泉六花!

 冷泉六花の翼が背中の炎を消し飛ばした。翼はそのまま前へ折れ、彼女の体を包み込もうとする。前方からの攻撃もガードする腹だ。だが。


「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 上京が叫んだ。翼の動きが止まり、ギチギチと不快な音を立てて逆方向へ開いていく。彼女は翼を背中側へ伸ばして自分の体を迫りくる炎へ晒す。


「私はっ!」

 彼女は杖を捨てた。両手で炎の手裏剣を掴んで止める。真剣白刃取りか? 冷気に守られているとはいえ手裏剣は高熱だ。手から焼けこげるような臭いがする。


「くっ……"偽造のイミテーション・藍玉アクアマリン"!」

 僕は右手から水流を放って上京を突き飛ばした。同時に炎を消す。


 吹き飛ばされた上京は地面に叩きつけられて転がった。衝撃で冷泉六花が砕け散り消える。


「"Stormy gusts冬の日の身 of winter’s dayを切る烈風"!」

 杖を手にしていない状態での詠唱。方向が定まらない突風が四方八方から僕へ叩きつけられた。威力こそ低いが、魔力量にごり押される。


「くそっ……もうちょっとなのに!」

 ダイアモンドの指輪に魔力を集中させる。だが盾は作らない。右のこぶしに魔力を集めて固める。


 こぶしを振りぬいた。突風を魔力で弾き飛ばす。これなら前へ進める! この一撃で決着をつけられる。


 間合いが近づいた。立ち上がりかけている上京へ右ストレートを突き出す。


「"Winter’s冬の荒 ragged handsくれた手よ"!」

 横合いから冷気のこぶしで手首を殴られた。こちらの攻撃が逸らされて外れる。


「あぁぁぁっ!」

 上京もパンチを放った。もう魔術と関係のないただのパンチだった。意外と鋭い一撃が僕の頬を捉える。視界が歪む。


「死ねぇっ!」

 もう一発来る。咄嗟に左腕でガードした。彼女のこぶしが腕時計に当たる。二撃目は魔力による強化があったのか、その一発で時計が粉砕されてしまった。それに気を取られていると、上京の左こぶしが腹部に飛んできた。少しだけ体が浮く。


 僕の体勢が崩れる。まずい。ボクシングの心得なんかない。このままだと殴り負ける。


 時間の流れが突然ゆっくりになった。この感覚には覚えがある。ビクトリアの一撃を貰ったときと同じだ。このままだと本当に……。


 視界にきらめくものが映る。さっき上京が殴り壊した時計のパーツだ。まだ宙に浮いている。というより止まって見える。時間間隔がよほどおかしくなっているようだ。


 その中に、赤い光が見えた。赤いパーツなんてあったか……あぁ、そういえば長針の先端が赤色だったような。思えば、ちゃんとデザインを見ていなかったような気がする。なんとなく気恥ずかしくて。


 ん……? あのパーツに僕の魔力が引き寄せられている? あの赤は、もしかして。


 ぼやける意識のなか、自然と腕が伸びていた。空中に飛ぶ時計のパーツを掴む。

 これは……本物のルビー!?


「あっ……」

 上京の声が漏れた。僕の左手に集まった魔力が熱を発する。形を整えている余裕はない。


 僕はがむしゃらに魔力を打ち出した。

 爆発音が響く。

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