27日目

今更の話だが、処刑の決定と実施予定日の決定は早かったが、いざ処刑となると当日引きずって行って首切り、というだけなわけではないらしい。というのを初めて知った。普段は城の兵士の1人として勤めてはいるのだが、幽閉された貴人の見張り番というのは彼女が初めてなのだ。

さて、25日を過ぎたあたりから、残り1週間を切って色々と準備が整えられていく。遺書を書く機会を与えたり、処刑当日の服を寄越したりなどである。一般人であればこの様なことはないらしい。貴族令嬢にこの様な貧相な生活を強制的に王太子命令でさせてはいるが、一応処刑に関しては貴人の格式に則ってするらしい。

というのを今、俺はお嬢様に教えて貰っている。


何故教えて貰っているのかというと。階段を昇る途中、すれ違った神父服を着た人が階段に躓いて転びそうになったのを助け、1階までお連れしたことに起因する。此処にメイドと自分たち見張り以外の誰かが来るのは殆どないからであった。例外として王太子とその婚約者殿が来たことはあるのだが、本当に何がしたかったのだか。それはさておいて。一体神父が何の用であったのか、といったことをお嬢様に尋ねたところ、色々と仕組みを教えてくださっているわけである。


「しかし何で神父なんです?」


「一応、処刑前に告解の時間というのが設けられているのですよ。当日だと告解を聞いても、処刑を見物する市民らの声でかき消されて主張が聞こえないことがあるから、事前に神父と罪人1対1、更に扉の前では見張りの兵士を置いて自身の悔い改めることを紡いだ言葉を神様にお届けするっていう意味で、こういった措置が採られてるんですって。懺悔室の牢屋版みたいな感じですわね。」


「なるほど。」


つまりあの年老いた神父はえっちらおっちらこの塔までやってきて告解を聞いてまたえっちらおっちら帰宅せねばならないのか。大変である。


「当然、告解なんてしてないですよね?」


「あら、わかってらっしゃいますわね!勿論です。絶対脱出してますからみてらっしゃい!と堂々宣言いたしましてよ。」


その言葉に俺は笑って。彼女にそうか。と告げるのだった。


****************************


『神はすべて見ておられます。罪を心から悔いればその罪を許すことでしょう』


『神父様。私は間違ったことをしたとは思っておりません。死を告げられる前も、告げた後も』


『……。』


『何れは王妃となる身でありますれば、この国を統べ、民を守るべく王となる方を支えるべく努力はして参りましたし、怠ったことはございません。婚約者の居る男性に近づく、しかも王家の者に近づく男爵の令嬢に注意することに罪はありましょうや。

王太子殿下は男爵令嬢に嫌がらせをしたといいますが、王妃教育で忙しい中そんなことをする暇などございません。我が家の国家転覆罪に関しても冤罪でありますれば。


私が神に懺悔することなど、何もない。』


そう、あのご令嬢は言ったのだと、階段を降りる神父を支えて案内していた時に。神父がぽつりと呟いた。


『私も、私個人としては。彼女が罪を犯したとは思っていません。ましてや死刑などしてよいとも思っていないのです。それでも、此処で教会の者が声をあげたなら。今度は我らが王太子にとっての邪魔者となり、潰されてしまうのでしょうね。』


思っても。言えないまま秘めなければならぬことがある。それ自体が罪かもしれないと。神父が俯くのを俺は見ていた。

礼を言って去っていく背中は、何時も堂々としている、たまに奇想天外なことをするお嬢様のものとは違ってとても小さい。きっと10日も前の俺はこの様な背中だったのだろう。


今はどうだろうか。力になりたいと願っても、どう彼女に齎される運命に足掻けばよいのかと悩む今の俺は。

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