26日目
今日の勤務のためにいつも通り少し早くに職場に向かっていると、何時もは三食と湯あみのための桶と水を持つときにやってくるメイドが何かの箱を持って北の塔に行こうとしていた。えっちらおっちらで危なっかしい。何をしているかを問うと、どうも4日後の処刑の際にお嬢様が着るドレスやらを持ってきたらしい。足元が見えづらいだろうし、石の階段に躓き中身をぶちまけでもしたら大変だろう。ということで。箱のうち嵩張るものは俺が持ち。他のものはメイドが持って移動することになった。そのため今日は兵士の服ではないのは勘弁してもらおう。ドレスやらを渡したらすぐに着替えに戻るから。因みに同僚はすでに帰っていた。あいつはまったく。
「え、何で制服じゃないんですの!?」
「驚くのそこですか?」
ということでやってきた時に格子付き扉越しのお嬢様の第一声がそれであった。わけがわからない。普通何の荷物かとか何があったのかとか気にならないのか。俺は訝しんだ。
「だって。何時も制服を着ての貴方しか見てませんわ!……へぇ。それが、私服ですのね。」
「……まじまじ見ないでくださいよ。」
メイドさんがその様子をじっと見つめてるから。食い入るように見つめてるから。
俺はいたたまれなくなって視線を外し、メイドに服やらなにやらの説明をして欲しいと矛先をそらした。
内容はまぁ、シンプルなものではあるのだが処刑用の貴人のためのドレスに、靴である。どうせあれだろ。自分たちが彼女に与えた仕打ちを誤魔化すためのものだろう。露出の極めて少ない風に作られたものであった。まるで体系を誤魔化そうとしているかのような、コルセットを締めて肩を露出するデザインが普通のドレスなのだが、それにまるでそぐわぬ、全身をふんわりと覆うものであった。
「あらあら。」
これを着るのかしら?と手で広げて見せれば、白の裾がひらりと揺れる。彼女が1人で着れるわけもなし。当日、いや前日だろうか。きっとメイドに手伝ってもらうことになるのだろう。この服を着た彼女を見て、その時俺は何て声をかければいいんだ。
処刑は朝の鐘が鳴った後だ。ならばきっと処刑台につれていくまでの護衛は、夕方の護衛の俺になるのだろう。30日目の朝に、死んでほしくない人を処刑の場所へ送る。それがあと4日後の俺なのだ。
などと、考えていたところ……お嬢様何をごそごそやってるんですかね?
「あっ。」
ばれた?という顔をしている。バレバレですお嬢様。どうも先に遺書のためにと渡された万年筆を握りしめ。処刑の時に身に着けるためのものだろう、バレッタ(これも王太子の嫌がらせだろう。何せ結って整える髪はなく。肩口までで揺れているのだから。)のピンの留め金の部分を万年筆先端でぐりぐりしているのだ。せめて隠れてやってくださいよ。
「いや、この鋭いのなら折れないかなって。」
「鍵穴をがちゃがちゃしても。ですね。」
「そう!!」
そう!!じゃない。俺は溜息を吐きながらも、変わらず脱走を諦めぬその姿に。言いようもない憧憬と、衝動と、悲哀と――― ……を、感じたのであった。
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