-30話

「漫画研究部のメンバーから指紋を取るのが一番手っ取り早そうッスね」

 そんな当たり前のことを自分たちの教室に戻ってから、赤羽根が言った。

 問題はその先だ。

「どうやって指紋を採取すんだよ?」

 漫研のメンバーのことすらわからないというのに。

「潜入……するしかあるまいな……」

 マジかよ。

 いや、それしか方法ないけど……マジかよ。

「私! 私やるッスよ!」

 赤羽根が積極的に名乗り上げる。

 つーか、何でこいつしれっと俺たちに混じってんだよ。

「駄目だ。赤羽根さんは目立つ。もしかすると新聞部絡みで知られているかもしれない」

 壱岐はきっと悪目立ちしているって意味で言ったのだろうけど、赤羽根のやつは「え!? 私ってそんなに注目される存在ッスか!?」と、まんざらでもなさそうにしていた。

 バカめ……

「あんたたちー! さっさと席に着きなさいー! 私の登場よー!」

 先生が入ってきたので、俺たちは慌てて自分の席へと戻った。

 話の続きは放課後だな。


 放課後、実験室。

 メンバーは昨日と同じである。

 担任は何やら授業の準備で忙しそうだ。

「潜入するならやっぱ一年が、入部希望です! って言って、見学させてもらうのが一番怪しまれないよな」

 というのが勝黄先輩の提案。

 妥当である。

 赤羽根は先程壱岐から却下されたので、俺か壱岐か拾井の誰か……ということになる。

 三人も必要ないだろうし……

「ええーっ! 俺、無理だよ!?」

 真っ先に拒否したのは拾井。

「漫画描けないし!」

 俺も描けねぇわ。

「読むけど、そんなに詳しくないし……話を上手く合わせられる自信ないよぉ」

 俺も自信ねぇわ。

「ふむ。ならば俺しかあるまい」

 最初っから行く気満々だったであろう壱岐が立ち上がる。

「いや、やめとけ」

「そうッスね」

「やめておいたほうがいい」

 みんな、うんうん。と頷く。

「なぜだ!?」

 なぜって……

「壱岐君って漫画とか読むッスか?」

「ほとんど読んだことがないな!」

 はい、アウト。

 図書室で本を借りたりと、読書家なのはわかるが、いつも小難しそうなものばかり読んでいるのを俺は知っている。

 とても漫画を読むなんてタイプじゃなさそうだ。

 ……アイドルのことも知らなさそうだしな……

「だったらもう、存在感消せそうな弐方しかないじゃん」

 おい、こら。

 ――最高の褒め言葉ありがとな!

 でも知り合って間もない拾井に言われたくねぇかも!

「待て。一人で行くのはよくない」

 自分の仕事で忙しいはずの担任が、またもや俺たちの輪に入ってきた。

「誰かが部員の気を引く必要がある。その隙に弐方が特性を活かして指紋を回収するんだよ」

 特性言うな。

「じゃあ……二人で行ったほうがいいってこと……?」

 誰が行くの? と、香坂さんは俺たち全員に問いかけた。

 二年生は学年的に無理、赤羽根もなし、拾井はさっき辞退したし……壱岐は論外。

 ――誰もいないじゃねぇか!

「――チャンスは一回。間違いなく回収しろよ」

「へっ……?」

 先生はスタスタと実験室を出て行く。

 え、ちょっ……先生がついてくんの!?

 先生は先生であって、一年とか二年とかそういう以前の問題なのでは!?

 俺は走って追いかける。

 他の連中も後を追ってきた。

「ちょっと待てよ、先生……あれっ?」

 教室の外に出ると、担任教師の姿はなかった。

 その代わりに……

「早くしろ」

「だ……誰……!?」

 黒髪の美少女が振り向いて俺をにらみつけた。

「ぎゃわー! 魔女は変身魔法が得意って本当だったッスかぁー!」

「それ反則じゃん! 騙されるよそんなん!」

 新聞部、うるさい!

 でも、勝黄先輩の言う通り反則だ。

 美少女に扮するとは……

「えー……先生こそ漫画とかわかんのー……?」

「知らん!!」

 大丈夫かよ……

「さっさと行くぞ!」

「へいへい……」

 みんなの「頑張れよー!」という応援を受けながら、仕方なく俺は美少女に化けた先生の後について行った。

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