-28話
話が脱線してしまったが、指紋のことだ。
演劇部員の誰とも一致しなかった、この謎の指紋をどうするかだ。
「演劇部の部室というのは、誰でも出入りできるのか?」
「鍵が開いていれば……」
言われてみれば。
今日初めて訪れてみてわかったが、あれだけ慌ただしくしていれば、部員じゃないやつがこっそり入ってきても気づかない可能性は高い。
「鍵がかかっていることもあるのか」
そりゃそうだろ。
「使わないときは施錠されているよ」
「鍵はどこにあるんだ?」
「職員室」
これもそれも当然の回答だった。
「ふむ……つまり、誰でも鍵を借りられるということか」
「あの……脅迫状は、ドアの前に郵便ポストみたいに設置されているリクエストボックスに入ってたよ」
「そうか……」
侵入経路を探ろうとしたようだが、不要だった。
「ふふん。進展なしのようッスね。我らが新聞部が力をお貸ししましょうかぁ?」
赤羽根がニヤニヤしている。
うざっ。
「今の君には不要な内容ではなかったのか」
壱岐の口調は素っ気ない。
「確かにそう言ったッスね。けど、場合によっては載せるのもありッス。もしかすると、千ヶ崎さんの望む話題性に繋がるかもしれないッスからね」
クライアントに従順なふりをしているだけだな。
本当は好奇心を抑えられないのだろう。
「犯人がわかった暁には、また面白おかしく責め立てるつもりか」
「しないしない! あくまで私たちのミッションは千ヶ崎さんたちの宣伝! それに、反省してるって何度も言ってるじゃないスか! 約束を破るほど私はクズじゃないスよ、先生!」
またもや担任に疑いの目を向けられる赤羽根。
自分はクズですって言ってるようなもんだろ……
「じゃあクズの赤羽根さん、ぜひとも君の意見を聞かせてほしいのだが」
「誰がクズッスか!」
「俺は部室棟のことをよく知らない。なので今日、初めて足を踏み入れて驚いたんだ」
俺も初めて入った。
驚いたことと言えば……
「演劇部の部室というのは、とても広いのだな」
そう、それ。
壱岐も同じことを思っていたのか。
「あー……そう言えば……広いッスね。私らのとこより広い」
「俺らも実はそこそこ広い部屋もらってるよ。コピー機が二台もあるからな」
勝黄先輩が補足してくれた。
こういうことは一年の赤羽根より、二年生の勝黄先輩に聞くべきだな。
「恐らく文化系の部活で一番広い部室を使っているのは、演劇部。階ごとによって一つは広い部室があるんだけど、一階の演劇部だけは特別だね」
優遇されているのだろうとは思っていたけど、演劇部の力がどの部活よりも強いのだということを改めて感じさせられた。
「……そういや……」
玖雅先生が何かを思い出したらしい。
「春休み……部室棟の工事があったな……」
「あ! そうだそうだ。確か春休み中は部活なしだった!」
春休みの出来事については俺たちは入学前なのでわからない。
「工事……ということは、建て替えがあったということか?」
「いや、校舎全体の塗装と一部報告のあった部室の修繕くらいだったが……」
先生は隣の部屋へ何かを探しに行った。
数分後、一枚の紙を手に戻ってきた。
それを壱岐に渡す。
俺たちも後ろからのぞき込む。
教員に向けて配られたらしいプリントだ。
何階のどこの部室にどのような工事に入るか羅列してあった。
「演劇部も載ってるッス!」
赤羽根がデカい声を出す。
うるせぇ。
「演劇部は拡張工事って書いてあるね……」
「元々広いのにさらに広げたってか!?」
香坂さん、勝黄先輩の二年生組が各々感想を述べる。
「これって……広げられるようなスペースがまだあったってこと?」
校舎自体を建て替えたわけではないのなら、スペースは限られているはず。
どう拡張したのかが俺は気になった。
「隣の部屋からスペースをもらったんだろ」
ということは……隣の部屋が狭くなったのでは。
「動機発見ッスー!!!!」
だからうるせぇよ! 赤羽根!
「香坂さん、演劇部の隣は何の部活だ?」
「ええと……何だっけ……」
思い出せないくらい存在がないのか。
「新聞部のお二人は?」
「俺たち階が違うから、一階のことは詳しくないんだよな……」
そりゃそうだよな。
自分の所属している部以外のことなんてわかるわけないか……
「ほらよ」
またもや先生が何か紙を差し出してきた。
部室棟のマップだった。
先生、やるじゃねぇか!
「ふむ……漫画研究部……か……」
そう。演劇部のお隣は漫画研究部。
ここの部室が演劇部のせいで狭くなったというわけだ。
――うん。十分動機になり得る。
「先生、なぜ漫画研究部が犠牲になってしまったかわかるか?」
「先生が何でも知っていると思うなよ。――この件はノータッチ。周知されたのみ。部活については生徒会に一存しているからそこに聞くか、もしくは改修工事の担当の先生に聞くかのどちらかだ」
……どっちも嫌だな……
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