-27話

 五人で取りかかるとあっという間に終わった。

 結果、誰のものとも一致しない指紋が一つ、出てきた。

「これが誰のものかわかれば……」

 犯人は特定できる……かもしれない。

 香坂さん曰く、今日演劇部に欠席者はいなかった。

 奇跡的に全員そろっていたのだ。

 ならば、この指紋は演劇部以外の人間のものとなる。

 壱岐やトバセンの思惑通りに、演劇部員たちを容疑者から外すことはできた。

 次にすべきことは演劇部員以外の人間を探すことになるわけだが、どこの誰を探せばいいのか……今のところ何の手がかりもない。

 これなら演劇部の誰かが犯人でしたってオチのほうがよかったのに。

「おっじゃましまーッス!」

 途方に暮れていたところに、鬱陶しいやつらがずけずけと実験室に入ってきた。

 先ほど演劇部の部室で別れた新聞部の二人だった。

「何しに来た……」

「げぇっ! く、玖雅先生! まだ何もしてないッスよ!?」

「まだって何だ。何かやらかす予定なのか」

「しないッス! 語弊ッス! 誤りッス!」

 先日の一件でこっぴどく怒られたのがよくわかる慌てぶりだった。

「先生、聞いてくれ! 俺たちは超反省してる! その証拠としてこれを見てほしい」

 勝黄先輩が一枚の紙を差し出す。

 それは、俺がさっきもらったアイドル速報だった……

「……反省しているようには見えないが」

「何で! 超反省してるじゃん!」

 そりゃそうなるわ。

 反省した人間が書く内容とは思えない。

「……これ……書いたのは赤羽根じゃないな? 品の悪さが感じられない」

「先生まで品がどうこうとか言うんスか!」

 問題の新聞記事と何か違うと感じたのは、取り上げている内容ではなく、赤羽根が書いたか書いていないかの差にあるようだった。

「……で? 次は演劇部の事件を面白おかしくしてやろうってか」

「違うッス! もうそういうのはやらないって、約束したじゃないッスか! 少しくらい信用してほしいッス!」

 先生の疑いの目は消えない。

「こ、香坂さんにインタビューしに来たんスよ!」

「私……?」

「千ヶ崎さんの舞台に立たれるということで、心境を! 魔女役のお話をいただいたときはどう思われましたか?」

 一瞬、沈黙が流れた。

 ……何だって?

「香坂……お前……」

 先生も信じられないという目で彼女を見ていた。

「魔女の役って……何?」

「その……あの……わ、悪い役ではないんだよ……?」

 香坂さんは俺たちの視線に耐えられなくなったのか、うつむいた。

「香坂さん、先日あのようなことがあったんだ。あなたも他人事ではないだろう……。劇の役と言えどもさすがにどうかと思うぞ」

 壱岐にまでそんなことを言われとは。

 香坂さんが魔女の力を持っているということは、あの赤羽根の品のない新聞記事を読んでいれば知っているはずだ。

 一見すみれの件もあり、今魔女に対する生徒たちの目は好奇に満ちているに違いない。

 だというのに、自ら魔女の役を引き受けるなんて……

「千ヶ崎に利用されてないか?」

 先生が言うように、千ヶ崎マリアがその話題性を利用したというふうに思えても仕方がない。

「り……利用は……されていると自覚しています……」

 自覚してんのかよ。

「あの……その……本当に悪い役じゃないんです……それに主役じゃないし……。だよね……?」

 香坂さんは新聞部の二人に同意を求める。

 二人は内容を知っているようで、ふんふんと頷いた。

「千ヶ崎さんにもはっきりと、私を利用したいと言われました。なので、わかっていて引き受けたんです」

「名誉挽回ッスよ!」

 お前がその名誉を墜落させたんだろうが。

 何偉そうなこと言ってんだ。

 俺、壱岐、玖雅先生の三人は軽蔑の眼差しを赤羽根に向ける。

「そんな目で見ないでほしいッス! 私が悪いってわかってるッスよ! 千ヶ崎さんの顔に泥を塗るわけにもいかないし、今回はちゃんとやるッス!」

 今回は……ね……

「浅はかだとは思っています……でもこれは私がやらなきゃいけないって気持ちもあって……」

 ぶつぶつと、必死に自分の思いを伝えようとしているが……長い。

 香坂さんなりに悩んで決断したことなんだというのはわかった。

「わかったわかった。もういい。自分で決めたことなら口出しはしない」

 先生も彼女の思いを聞くのが面倒になったらしく、半ば諦める形でこの話を終わらせた。

「先生、安心するッスよ! 誤解のないように書くッスからね! お任せあれ!」

「……」

 不安しかないな……

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