-24話

 脅迫状の指紋は拾井とトバセンに任せて……

 俺、壱岐、香坂さんは演劇部の部室へとやって来た。

 朝凪には部室棟なる校舎が存在している。

 その1階に演劇部の部室がある。

 思ったよりかなり広くて俺は驚いた。

 人数が多い上に、高校生の演劇大会でいつも優秀な成績を収めているだけあって、優遇されていると見た。

「あら、これはこれはクラスメイトの壱岐君に、弐方君。あなた方も演劇部に興味がありまして?」

 早速、千ヶ崎マリアに目をつけられた。

 ちゃんと話したことなかったけど、こうやって面と向かってみると強烈なキャラしてんなぁ。

「悪いが、そうじゃないんだ。香坂さんから脅迫状が届いたと聞いてね。調べに来たんだ」

「そう。私は忙しくてあなた方に構っていられませんので、お任せしますわ」

 好きにしていいってことだろうか。

 ……部長の許可も得ずに、そんなことを言っていいのかな……

 千ヶ崎さんは本当に忙しいようで、さっさと俺たちから離れて行ってしまった。

「香坂さん、部長はどの人だ?」

 香坂さんに、部長の高千穂さんを紹介してもらった。

 派手な見た目の千ヶ崎さんとは違い、大人しそうな雰囲気の人だったが……眼光が鋭いせいで怖い。

「指紋? 警察みたいなことをするのね。好きにすればいいわ」

 事情を説明し、指紋のこともあっさり了承を得られた。

「いやいやいや! 指紋て何だよ!」

 高千穂部長の意見に異を唱えたのは、とある三年の男の先輩だった。

「誰?」

「部長派の入野先輩。主に仕切ってるのはこの人」

 こっそり香坂さんに聞くと、そう教えてくれた。

「俺らは犯罪者かよ! 人権侵害だ!」

 当然の反応っちゃあ当然か……

「どうせ千ヶ崎たちのうちの誰かだろ!? 疑うんなら、そっちを調べろよな!」

「貴方方は全員潔白であると?」

「当たり前だろ!」

 俺と香坂さんは突き刺さるような視線を背中に感じて、後ろを振り向く。

 恐らく千ヶ崎派であろう人たちが、入野先輩をにらみつけていた。

 怖っ……

「つーか、あいつなんじゃねぇの? 裏切り者の上坂」

「ちょっと、やめなさいよ」

 高千穂部長が、若干強めに入野先輩の肩を叩いた。

 ぎゃあ! と、悲鳴をあげて先輩は肩をおさえる。

「その上坂さんと言うのは?」

 壱岐は二人のやりとりなどお構いなしに尋ねた。

「上坂は副部長。千ヶ崎の肩を持つもんだから、こいつが裏切り者なんて言い出したってわけ。ほら、あんたたちの後ろにちょうど」

 高千穂部長が指をさすのでぎょっとしながら、再び後ろを見る。

 ツインテールの可愛い系女子がそこには立っていたのだが……ゴミを見るかのような目をしていた。

 視線の先は入野先輩。

 可愛い顔が台無しだ。

「テメェ……文句あんならあたしに直接言えや。ぶっ殺されてぇのか」

 怖!!

 とんでもねぇ人だった!

 とてもこの可愛い顔から発せられる言葉とは思えない!

「裏切り者裏切り者って……秋菜ちゃんの影に隠れてイキッてるテメェよりましだっつーの」

「も、申し訳ございませんでしたー!」

 入野先輩は即座に土下座をした。

 弱っ……

 プライドはねぇのかよ!

「そうやって一生床と仲良くしてろ」

 吐き捨てるようにそう言って、彼女は立ち去った。

「……なんかごめん」

 なぜか高千穂部長が謝ってきた。

「くっそー! 何なんだよ、あいつ!」

 入野先輩が悔しそうに床に拳を叩きつける。

「あんな子じゃないのよ、本当は。だから、疑わないであげる?」

「……部長は上坂さんの味方なんですね?」

 俺が言うと、彼女はやれやれといったふうに、首を横に振った。

「敵も味方もないよ。確かに今は派閥だなんて言ってぎくしゃくしているし、脅迫状とかも届いたけどさ……みんな仲間じゃん」

 高千穂部長……人格者かよ……

「脅迫状のことはあまり気にしていないようだな」

「まぁね。演劇部の小物が壊されたりしているのは気になるけど……千ヶ崎にこっちの本気をぶつけることができるのなら、何でもいいよ」

 余裕の笑みを浮かべる高千穂部長。

 かっけー!

 怖い人かと思ったけど、男前かよ!

 なんて心の中で思っていると、香坂さんがニコニコと笑顔で俺を見ていることに気がついた。

 ……え? 俺の心の中でも読んだ? 

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