11話 一人は謎の部活に興味を持つ

 翌日放課後。

 三太がどうしても科学探偵倶楽部が気になるというので、仕方なく連れて行くことに。

 科学探偵倶楽部に部室なんてものは存在しない。

 授業で使う実験室を占領している。

 実験室は……我らが担任の根城でもある。

 普段決まった人間しか来ないこの場所に、珍しく人が溢れかえっていた。

「こんなにも沢山の入部希望者が……!?」

 絶対違う。

「しかも女性ばっかり……!」

 いいところに目を付けたな、三太君。

 これはきっと、入部希望者ではなく佳一目当てで来た女子ばかりだろう。

 おかしなことを口走った佳一だが、顔は悪くない。

 女子にモテるのも事実。

 しかし、同級生や一年共に過ごしてきた二年生なんかは壱岐佳一という人物がどういうものか知ってしまったので、近づかないだけであって、何も知らない新入生はこうやって顔だけに釣られてやって来るというわけだ……

「あ……あの……慎二郎先輩……教室の中から赤ちゃんの泣き声が聞こえるような気がするのですが……気のせいでしょうか……」

「……気のせいじゃねぇよ。まぁ、とりあえず中に入ろうぜ」

 とは言っても入り口は女子で塞がっていて入れない。

 ではどこから入るのか。

 ――隣の理科系先生たちの控え室的な所から入ればいい。

 実験室へと繋がっているからな。

 ほとんど物置きのようになっている部屋だ。

 ここは玖雅先生ともう一人、生物担当の先生がいたりいなかったりするので、俺たちも勝手に出入りしている。

 女子たちに気づかれぬよう扉を開けて、中に入る。

「……んげっ」

 てっきり誰もいないと思いきや、例の生物の先生がいた。

「何だ。いて悪いか」

 俺たちに見向きもせずに先生は言う。

「いや……別に……とばり先生がここにいることってあんまりないから……」

「そうか。お前たちが知らないだけだろう」

「へ……へー……」

 調子狂うな。

「それにしても外が騒がしいな。何の騒ぎだ」

「入部希望者が集まってるぽい」

「……それは本当に入部希望者か?」

「違うと思うけど……」

 先生との会話もほどほどにして、俺と三太は実験室へ通ずる扉へ向かった。

 静かに開ける必要なんてなかったが、ゆっくと顔をのぞかせると、そこは地獄絵図だった。

 玖雅先生は教壇で沢山の紙に囲まれて死にかけているし、拾井は教室の隅に設置されている畳の上で死にそうな顔で泣く赤ん坊をあやしている。

 佳一は佳一で女子たちに質問攻めにあっていた……

「……これが科学探偵倶楽部です」

 呆気にとられている三太にそう言っておいた。

「弐方! 交代! 選手交代!」

 拾井に見つかってしまい、おもちゃを押し付けられる。

 うわ……マジかよ……俺、泣き止ませることに成功した試しがないんだけど……

「先生、何とかしてくれよ」

「無理……かれこれ一週間はまともな睡眠を取れていない……死ぬ……」

 夜泣きに悩まされているのは察することができた。

「三太って、赤ちゃんあやすの得意?」

「え!? そ、そんな……僕無理です……! 第一、誰のお子さんですか……!?」

「それは話せば長くなるからまた今度……」

 俺は渡されたおもちゃを今度は三太に押し付けた。

「機嫌がいいときはね~それをガラガラ~って振ってあげると喜ぶんだよ~」

 どうしよう! と、戸惑っている三太に拾井が指導する。

 言われた通りに三太はおもちゃを振る。

 ……泣き止まない。

「今日は機嫌が悪いのかもね~……。ところで君、誰? 新しいベビーシッター君?」

「勝手にベビーシッターにするな」

 前に説明しただろ……と、俺は拾井に三太を紹介した。

「あー! 壱岐から聞いたよ。ようこそ! 科学探偵倶楽部へ! もしかして、興味あるー!?」

「えっ!?」

 勧誘もするんじゃない……

「三太は一応今は演劇部だ。千ヶ崎さんに怒られるから、勝手なことはしてくれるなよ」

「ちぇー」

 拾井は口を尖らせて、畳の上に寝転んだ。

「あ、あの。拾井先輩も一緒に事件を解決されてきたんですか?」

「えーうーん。解決してきたというかぁー巻き込まれたというかぁー壱岐に利用されただけ?」

 ……その通りだな。

「でも面白かったからいいんだけどねー」

 面白いと言えるのが拾井のすごいところだな。

 俺はちっとも面白くなかった。

「先輩たちはいつもここで作戦会議を!?」

「作戦会議……」

 遠い目になる。

 そんないいものでは……

「やっぱり君も入部希望者なんだね!?」

「へっ!? そ、そんな! 僕はただ……」

 ……興味があるのはあるんだな。

「お願いだよ~入部してよ~掛け持ちでもいいからぁ。沢山人が来たと思ったら、あれだしさぁ~」

 拾井は佳一に質問を浴びせている女子の集団を指差した。

「……今年で廃部かな」

 拾井が俺をにらみつける。

 いや! 今のは俺じゃない!

 先生が言ったから!

「今、どのくらいの人がいるんですか?」

「えっと……俺、佳一、拾井……」

嶺花れいかっちもいるよ」

「彼女は名前を借りているだけだろ……」

 しかも全員三年。

 仮に三太一人が入部したとて廃部は免れない。

 最低三人必要だ。

「潮時だな。諦めろ。今時お前みたいに科学なんてものに興味のあるやつなんて、そういないよ」

 正直この部活がどうなろうと構わない。

 だが、寝ているのかと思いきや起きていた先生の言葉を聞くと、少しさみしいような気もしてしまったのだった。

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