10話 一人は勧誘に燃える

 部活動紹介は順調に進んでいき、いよいよ最後だという頃。

 ――事件は起きた。

 いや、事件は大げさだな。

 大したことではない。

 大したことじゃないけど……俺には衝撃的だった。

「あれっ……?」

 モニターを見ていた三太が声を上げる。

「どうした?」

「あの……これって……」

 画面を指差すので俺も見た。

 ――……。

「新入生の皆さん! ご入学おめでとーございまーす!」

 呑気な声が流れてきて、俺の顔から感情が消えていくのを感じた。

 何をやっているんだこいつらは……

「こ、これ先輩ですよね? 部活、入っていたんですか?」

「ノーコメントで……」

 頭が痛い。

「僕たちは、科学探偵倶楽部という部活動のメンバーです!」

 マイクを握って話している白衣のやつは、名を拾井ひろいと言う。

 何かと俺たちとよく絡むことが多い。

 そして、隣にはそう言えば姿が見えなかった佳一。

 さらになぜか、国語担当の華村先生まで一緒に舞台に立っていた。

「様々な実験を行ったり、発明品を作ったりします! 初心者大歓迎!」

 むしろ初心者しかいねぇわ。

「国語担当の華村です」

 先生にマイクが移る。

「今は科学探偵倶楽部という名称に変わっていますが、私も当時の科学部に所属していました。科学部は高校生の私に素晴らしき道を示してくれた部活です。そして、それは今も同じです。ここにいる拾井君は、全国高校生魔法科学大会で二年連続優秀賞をもらっています。また、顧問であり化学担当の玖雅先生は、最年少で博士号を取得、魔法省の研究機関で勤めていた実績もお持ちです」

 絶対後で先生に怒られるやつだ……

 いいのか……華村先生……

「このような素晴らしい先生と先輩に恵まれた部活です。皆さんの学びもきっと、より豊かなものになるでしょう!」

 ……こっちのほうが宗教勧誘に思えてきて仕方ないのだが……

「最後に、部長であり成績優秀者でもある壱岐君から挨拶をしてもらいましょう」

 成績優秀者の言葉に間違いはないが、あの三人の中で一番部を残そうと必死になっているのは先生のような気がした。

 高尚な生徒の集まりであることをアピールしたいようだが……

 それって逆効果なのでは。

「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます――」

 佳一にしては普通のトーンで喋り始めた。

 ――こいつが普通に終わるわけがない。

 くる。

 何かくる。

「我が科学探偵倶楽部は、これまで様々な事件を解決してきました。この学校で起こる事件です」

 事件と聞いて、騒然となる。

 当たり前だ。

 事件が起きる学校って何だよって話だ。

「そして、今もまた悲劇が繰り返そうとされています。そうなる前に我々は、動かなくてはならない! 新入生の皆さん! どうか皆の力も貸してほしい! 彼らは君たちにきっと近づく! 事が起きてたからでは遅い。共に戦おう!」

 そこで、幕が強制的に下ろされた。

 はい、最悪――。

 説教確定。

 お前もちゃんと監視をしていろと、一緒に怒られる案件だ。

「えーと、最後は俺たちで締めてって言われたんで俺たちの再登場です!」

 何事もなかったかのように小松原三兄弟が、最後の進行を始める。

「一年生のみんな! 最後までお付き合いいただきありがとうございました! これからよろしく!」

「気になった部活があれば、部室へ行って見学してみてください。先輩たちはみんなを待っているよ~」

「で、本当の本当にこれで最後。俺たちからのお知らせです。クロ、よろしく」

 空先輩に話を振られ、クロこと小松原虹は、珍しく緊張しているのか「えー、オホン」なんて言って咳払いをしている。

「今までずっとこの三人でGame Holicやってきたわけだけど……俺たちも卒業しないといけないなと思っています」

 他の曜日のメンバーたちは、次のパーソナリティー募集を呼びかけていたが、三兄弟だけは何も言わないなとは思っていた。

 最後に言い出すとは……

「さみしくなるけど、ずっとこのままってわけにもいかないしな」

「そういうこと! そんなわけで、俺たちも新たなメンバーを募集します!」

 さみしいだの色んな声が聞こえてくるけど、拍手も聞こえてきた。

 皆、三人の決断に異論はないようだった。

「人数は俺たちと同じ、三人! オーディション形式で決めます! 審査員は俺、クロと、俺が選んだメンバーで行います! 発表は今年の文化祭で!」

 文化祭……学生生活における大きなイベントの一つ。

 文化系の部活動にとっては、三年生の引退の場でもある。

 そんなイベントでの世代交代。

 大いに盛り上がるだろう。

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