9話 音楽の世界へ誘う二人
「すっごいステージだったねー! 私の音楽魂もピョンピョンしちゃうよ~っ!」
生徒会と軽音楽部が舞台袖に引っ込んだところで、今度はきゃぴきゃぴした女子の声が講堂内に響き渡った。
――放送部部長、宇佐美が放送席に座っていた。
「お次は火曜日担当! 不思議な音楽の世界へようこそ!
宇佐美が間を繋いでいる間に、次の部活がスタンバイし、水曜日担当の連中もやって来た。
小松原三兄弟は、機材の調整などを行っている。
「新入生のみんな! 入学おめでと! DJラビットちゃんだよ~! よろしく~!」
これまたよくわからんテンションのやつが現れ、新入生は軽く引いているようだった。
「火曜日のお昼は、みんなのリクエストに応えて色んな曲を流しちゃうよ! 放送部の部室の扉ににボックスが付いてるから、そこにかけてほしい曲を紙に書いて入れてね! ゲストに呼んでほしい人もリクエストしてね! 応えられるかわかんないけど! そうだ! ゲストと言えば~今日は特別にこの方に来てもらっていますっ!」
「やほー! お久しぶりのアリスだよー!」
突然のアニメ声に、一部で喜びの声があがった。
これまでMusic in Wonderlandを聞いてきた者たちにとって、嬉しいサプライズだろう。
卒業により引退した、初代パーソナリティーの声が久々に聞けたのだから。
つっても彼女を知っているのはもう、俺たち三年だけだな……
「ようこそ~! アリス先輩! またご一緒できて嬉しいです!」
「いやはや、またここに戻ってこられるとは思いもしなかったよ~」
和やかに話す二人を三太が凝視している。
特にアリスこと有栖川先輩……
わかるぜ……その気持ち。
さっきのロボットみたいなアナウンスしていた人と同じとは思えないよな……
でも同じなんだぜ……
「ラビちゃんもだいぶ貫禄が出てきたねぇ。MCもお手のものだねぇ。感心しちゃったよー」
「え~? そうですかぁ? 照れちゃうなぁ」
宇佐美は有栖川先輩からのお褒めの言葉を本当に嬉しそうに受け止めていた。
「私、アリス先輩が卒業してしまって、一人でやっていけるか不安だったんですけど……でも、先輩が教えてくれた沢山のことを胸に、ここまでやってきました。本当にありがとうございます。今日、あのときみたいに先輩と向かい合うことができて……嬉しいです……っ」
キャラを忘れて、素の宇佐美として語り始めた上に感極まって泣きだしたので、有栖川先輩は困惑した表情になっていた。
「え……え~っ!? ちょ、そこで泣く!? なんか卒業式みたいになってんじゃん! アリス、卒業したの去年なんだけど~!」
画面の向こうから「ラビちゃん頑張れー!」という声が聞こえてきたので、俺はそのまんまスケッチブックに書いて見せた。
「ほ、ほら、みんな頑張れって言ってるよ! あとちょっとだから頑張ろ! みんなに言わなくちゃいけないことがあるんだよね!?」
先輩は宇佐美にハンカチを渡しながら、進行を促した。
「そうだった……みんな、ごめんね! 応援ありがとう!」
涙をふき、気を取り直して宇佐美は続けた。
「気づいている人もいると思うけど……私、ラビットは三年生です。来年の春には卒業しちゃいます。なので、これからMusic in Wonderlandを支えてくれるDJちゃんを募集しちゃいます!」
こちらも世代交代か……
新学期は始まったばかりだけど、卒業がすぐそこに迫っているのだとつくづく実感させられる。
「人数、学年、性別問いません! 音楽に対する情熱があれば誰でもOK! 後日、オーディションを行いますので、興味のある方は放課後に放送部へ!」
「アリスたちが作り上げたMusic in Wonderlandをこれからも残していってほしいな~!」
新しいことを始めたものの、その後を引き継いでいくのって大変なんだな……
視聴者の一人でしかない俺は、他人事のようにそう思うだけだった。
何か、行動を起こそうという気なんて全くない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます