12話 科学探偵倶楽部に集いし人たち
「ちょっと、すみません! 通してください!」
どうしたものかと誰も何も言わない状態が続いて数分、女子の大群を押しのけて、ある女の子が俺たちの前に飛び出してきた。
お……
「若葉ちゃん。本当に入学したんだ……」
ピカピカの制服に身を包んだ小柄で可愛らしい彼女は、息を切らしていた。
「皆さん……どうも……ごきげんよう……」
「わーおめでとーようこそ、朝凪へー」
俺は彼女を椅子に座らせた。
「三太……彼女は
同じ一年生同士だし……と思い、俺は三太に彼女を紹介した。
「は、初めまして。大参三太です。一年C組です」
「若葉純です。一年B組です。皆さんには入学前よりお世話になっています」
相変わらずニコリともせずに、彼女は頭を下げた。
「今日はどうした?
「いえ……今日はお願いがあって来ました」
お願い?
「玖雅先生! この通り私は朝凪の生徒になりました! なので! 弟子にしてください!」
ああ~……
そんなこと言ってたなぁ~……
「……お断りします」
むくりと起き上がり、隈だらけの虚無に満ちた目で、先生はきっぱりと言った。
「約束したじゃないですか!」
「わー、純ちゃんも先生の弟子になるの? でも俺が兄弟子だってこと、忘れないでね!」
「約束なんてしていませんし、弟子は取りません」
先生は再び眠りに就いた。
「ひどい! 約束を破るなんて! 私も先生みたいな魔女にしてください!」
「この学校には沢山魔女がいるから、他の人たちに聞きなさい」
魔女……?
と、佳一との話に夢中になっていた女子たちがざわざわし始めた。
まずい。よからぬ噂が流れるのでは……
「若葉ちゃん、落ち着こうぜ。先生も授業に子育てに忙しいからさ……」
俺が余計なことを言ったばかりに「え? あの赤ちゃん、先生の子ども……?」みたいな声も聞こえてきた。
違う……違うんだ……
「私……嶺花先輩のお役に立ちたいのに……! そのためには、私が強くならなきゃいけないんです! 先輩は私が守る!」
「若葉ちゃん……」
あの人は多分守らなくても一人で生きていけるよ……
「私に少しでも魔女の素質があるなら、その力を扱えるようになりたいんです!」
「俺の担当科目は化学だけなんですけどー……」
最近、魔女の力をきちんと扱えるようになりたいって女子が先生の所に集まってきているのは事実だ。
先生も生徒をむげにはできないから、希望に応えてあげているのは俺たちも見てきているが……
先生がこの二年でやつれたのもまた事実。
変に期待はさせたくないのだろう。
「そこまで言うなら……若葉純、そこの赤ん坊を泣き止ませてみろ。話はそれからだ」
「それ、関係あります!?」
「大ありだ。その赤ん坊は千里眼とまで言われ、誰もが欲しがった力を持つ魔女だ」
先生……うまい具合に子守を押しつけやがった……
「はいはいーこれ、おもちゃねー」
拾井におもちゃを握らされて、若葉ちゃんは真剣な表情で赤ん坊に近づく。
大丈夫かな……
「何やの! これ!」
一人片づいたと思ったところへ、今度は別の刺客が現れる。
女子三人が、やんややんや言いながら転がり出てきた。
風紀委員のお出ましだ……
「次から次へと何なんだ! 休ませろよ!」
悲鳴を上げる先生。
「玖雅先生! 風紀委員のミーティングや言うてるのに何してるんですか! 早よ来てください!」
この訛の強い女子は、風紀委員長、
風紀を乱す者は絶対に許さない系女子で、口うるさいが……俺は気づいてしまった。
方言女子……悪くない。
「風紀委員にはちゃんと担当の先生がいるだろうが。なぜ俺が参加せねばならん!」
「あんな人、当てになりません!」
「何つーことを言うんだ……」
生徒指導を兼ねている玖雅先生は、この通り風紀委員から委員会に参加するよう常に迫られている。
同じく生徒指導を担当している先生の後輩、華村先生はすでに風紀委員に取り込まれているのであった。
それとは別に、風紀委員にはきちんと部活で言う顧問的な先生がいるそうだが……笹部たちにとっては役に立たない先生なのである。
「玖雅先生……大変なんですね……」
三太が小さな声で言った。
「とても怖い先生だと思ってました……でも、僕が派島さんたちにひどい目にあわされたとき、先生は励ましてくださいました」
「……そうか」
何だかんだ言って、放っておけない性分なんだな。
「俺たちにも優しくしてほしーよねーやれやれ」
お前は日頃の行いを見直せ、拾井。
「先輩たちはどうして、科学探偵倶楽部を始めようと思ったんですか?」
「始めるというか……元々拾井が一人でやってたんだけど……成り行きかな」
俺は巻き込まれたんだけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます