-19話
「……壱岐、間島。お前たちもこれで懲りただろう。見たろ、あの力。伍紙先生ですらお前たちを守るだけで精一杯だった」
……伍紙先生が俺たちを教室の外に連れ出してくれていなければ、俺たちも気絶してたかもしれないってことか……
間島先輩はそれでも気絶してしまったが……
「最後、一見は完全に乗っ取られていた。何者かに。恐らく、次に目を覚ましたとき、今日のことは……」
先生は悔しそうに言葉を濁した。
今日のことは忘れているってか……
最悪だな……
「もうあいつはこの学校にはいられない。あいつの魔女の力を利用しようと、また狙われるかもしれない。何なら俺の力すら欲しがっているくらいだ」
「……先生……何で魔女の力を欲しがるんだ? その力を手に入れて、一体何を……」
俺が尋ねると、先生は大きなため息をついた。
「さぁな……知りたくもない……。俺は外の世界を知らなかったから……こんなにも自分が特別だとは思いもしなかった。魔女は……いつの時代も人を惑わせる……魔女の力を持つ者自身をも……」
半分独り言みたいな先生の言葉。
外の世界を知らなかった……?
どういうことだ?
「ま……魔女の力が欲しいなら、香坂さんも危ないんじゃあ……」
間島先輩が青ざめている。
「そうだな……一見はお前を引き込もうとしていた。そうなんだろう?」
「は……はい……一見さんと私ならきっと、上を目指せるって……でも私……臆病だから、怖くて……」
「上を目指せるって……何ですか?」
ついつい勢い任せに聞いてしまい、香坂さんはぎゅっと口を閉じてしまった。
俺は慌てて謝る。
「ごめんなさい。違うの。その、あの、私もあんまりよくわかっていなくて……また今度、また今度っていつも逃げていたから……こんなことなら、ちゃんと話を聞けばよかった……」
後悔しているのか、彼女はまた涙を瞳にため込んでいた。
「先生、きちんと説明してくれまいか。この学校で……何が起きている?」
そうだ、それだ。
間島先輩の言っていた、宗教的なもの。
それが関係あるんだろう?
「知らないなら、知らないままでいたほうがよかったのに……」
先生はため息をつきながらそう前置きした。
「俺たちが在学中の頃から、やつらは存在していた。最初は噂程度で何か実害があったわけではない。頭が良くなる飴があるとか、好きな人と両思いになれるまじないがあるとか……それは今も同じか」
頭が良くなる飴の話は、間島先輩も言っていたな……
「次第に小さな噂がどんどん大きくなっていき、一見のように問題を起こすやつが目立つようになってきた。どいつもこいつもあの人のためだとか、認めてもらうだの何だの……」
確かに宗教っぽいな。
崇拝している誰かがいるんだな。
一見さんもあの人って……
「彼らが崇拝している相手というのは?」
「わかっているならとっくにそんなやつ、俺が殲滅している」
すげぇ自信だな。
「大多数のやつらが、あの人が誰なのかわかってねぇよ。一見だって知らないのだろう。上を目指すというのは、恐らくやつらの中でランク付けがされており、幹部クラスの者ならその正体を知っているのかもしれない」
「けど……トチれば、一見さんのように記憶を消される」
いくら幹部とて、記憶を消されてしまえば意味ないってか……
「信仰者……と呼んでいいのかわからないが、彼らの目的は何だ? 新たな宗教の確立か?」
「色んなやつを見てきたが、俺には一つの目標があってそこに向かって動いているようには見えなかった。各々考えていることがあって、自分の目的や夢を達成するために利用している……そんなふうに感じた。逆に利用されているとも知らずに」
自分の目的や夢。
一見さんの場合、平等な世界を求めたということになるのだろうか。
女性や魔女が蔑まれることのない世界。
そんなもの、一人で実現できるわけがない。
彼女は他に助けを求めた――
「……俺の話はここまでだ。そういうことだから、お前たちも不用意に首を突っ込むな。何かあれば大人に……と言ってもその大人すら感化されてるやつもいるからな。怪しいやつを見つけたら、俺に報告しろ」
ケガはもういいのかと聞く前に、先生は立ち上がって他の生徒たちの所へ行ってしまった。
まだわからないことだらけなんだけど……
「先輩、彼らの名称はないのか」
壱岐に話を振られ、間島先輩は首を左右に振った。
「……我々は名前に囚われない」
香坂さんがボソッと言った。
「我々は皆、人を導く力を持っている。自分の力を信じるのだ。名前に縛られてはいけない」
何を言ってるんだ、香坂さん!
怖いんだけど!
「一見さんから聞いたんだ……多分、そういう考えの下で活動しているんじゃないかな……」
怖……
団体名とかに囚われないってのはわかったけど……
「……人を導くなんて一見聞こえはいいが、支配を目論んでいるようにも聞こえるな」
俺の感じた恐怖というのは、そういうことなのかもしれない。
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