-7話

 次の日。

 俺はいつも通り登校。

 あくびをしながら教室に入ると、壱岐はすでに自分の席に座って本を読んでいた。

 昨日あんなことがあったからって、わざわざ声をかける必要はあるまい。

 もしかしたら昨日の出来事が噂になってるんじゃないかと少し期待してみたりしたが、クラスメイトたちの会話に耳を傾ける感じではそんなことはなかった。

 自分から口にすることでもない。

 もし、誰かから聞かれたら、そのとき答えることにしよう……

 席でうとうとしていると、予鈴が鳴った。

 みんながガタガタと席に着く音がし始めたところで、教室の扉が開いた。

 目を開けると、相変わらず隈がすごい担任が入ってきた。

 昨日よりやつれているような……

 なんて思いながら見ていると、バチッと目があってしまった。

「起立!」

 学級委員長の壱岐の号令で、みんな一斉に立ち上がる。

 朝の挨拶をして、着席。

「……全員そろっているな」

 生徒たちの顔をざっと見て、全員いることがわかればパタンと担任は出席簿を閉じた。

 ――そして。

「壱岐と弐方……今日の放課後、生徒指導室に来るように」

 ……はいっ?

「以上。本日も勉学に励むよーに」

「え、ちょっ……先生!?」

 呼び出された意味が全くわからず立ち上がるが、担任はさっさと出て行ってしまった。

 何で!?

「弐方お前……何したんだよ」

 後ろの席で、面白がっている気配がする。

 く……くそー……

 昨日のことか。

 目立たず地味に送るつもりの高校生生活が……

 ああああ……


 先生からの呼び出しは不本意だが、もう一つ不本意なことが。

「弐方ぁー、壱岐ぃー、三年の先輩が来てるぞー」

 三年の先輩……間島先輩しかあるまい。

 朝といい、壱岐と弐方って仲良かったっけみたいな視線が不愉快だ。

 俺は仕方なく廊下に出た。

「来ちゃった!」

 先輩は俺たちの顔を見るなり手を挙げた。

 来ちゃった。じゃねぇーよ。

「本当は放課後でいいかなと思ったんだけど、生徒指導室に呼び出されたちゃったからね。君たちもでしょ?」

「え、先輩もですか」

「そうなんだよー! だから先に二人に情報共有しておこうと思ってね」

 さすが、行動の早い間島先輩。

「昨日、バド部の助っ人する予定だったから、早速聞いてきたよ。何なら部室で他の部活の子たちからも色々聞いちゃったよね」

 そう話す先輩曰く、意外なことが発覚したそうだ。

 松葉悠人は遊び人らしく、二年生たちの間では有名なんだとか。

 ――それは、おおよそ見た目通りだな。

 そんな彼ら、二年生が一年だったときの話だ。

「あの古市さんって怯えていた子、いるでしょ? あの子……松葉君とつきあっていたんだって!」

「え……」

 えぇっ?

 嘘だろ……

 チャラ男とあの大人しそうな人が?

 どう考えたって釣り合わない。

「まぁ、内気な古市さんがからかわれてただけなんだけどね!」

 がくっ。

 やっぱりそういうことかよ。

 つーか、最低だな! 松葉ってやつ!

「古市さんはすっかり本気にしちゃってたみたいだけど、二年生になってクラスが離れて……あっさり捨てられちゃったんだって」

 さすがに同情するぜ……

「それで……今の新しい彼女が、一見さん?」

「そうなるね」

「一見さんに嫉妬して、古市さんが呪いをかけたってオチですか?」

 あまりにも単純だったので、俺は拍子抜けてしてしまった。

「古市さんの復讐の手助けを更科さんがした……そういうことか?」

「私はそう思う。やましいことがあったから、彼女、あんなに噛みついてきたんだと思うよ」

 単純なんて言ってしまったが、彼女にとっては呪いたいくらいつらいことだったのだろう……

「そうなると……一見さんも弄ばれていることになるのか?」

 俺がふと、思ったことを声に出すと、間島先輩は顔をしかめた。

「よくわからないのよね、その辺は。二年生になって、一見さんが松葉君の彼女になって……それで何となく一見さんのことを知っている人も増えたみたいだけど、一年生の頃の噂とかがないんだよね」

 そんなことまで調べたのかということにまず驚いたけどな。俺は。

「ちょっとそこに違和感あってさ。一見さん……いわゆるギャルらしいんだけど、それなら目立つはずじゃん。なのに、一年生のときの印象が特に誰も記憶にないって、おかしくない?」

 言われてみれば……

 クラスが違って、顔見知りでも何でもないのに、目立つやつって知っていたりするもんな。

「あの更科さんって子も、同じクラスの子によれば普段は大人しくて古市さん以外と絡んでいるのを見たことないから、よくわからないって言うんだけど、それはまぁ言っちゃあ悪いけど、仕方ないかなって思うじゃん」

 少々差別的な言い方にはなってしまうが、先輩の言う通りだな。

 できれば俺も、誰からも知られることなく高校生生活を終えたい。

「どうやら被害者の彼女にも何かありそうだな?」

「そうだね。今回のことに関係があるのかはわからないけど……」

 そこを深く突き詰めると、脱線してしまいそうな気もする。

「間島先輩、俺は一つ気になることがあるのだが」

 壱岐は話題を変えるように先輩に尋ねる。

「仮に古市さんと更科さんによる復讐が今回の結末だったとして……呪術はどこで会得した?」

 ……そうだ。

 俺が知りたかったのはそれだ。

 前にも言ったように、真っ当な生活を送っていれば、呪術なんぞ知る術はないのだ。

 なのに、二人は知っていたかもしれない。

 ――じゃあ、どこで知ることができたのか?

 問題はそこだ。

「まさかインターネットではあるまいな?」

 ネットでもよく、簡単な呪いのかけ方! みたいな胡散臭いサイトを見かけるが、大半はデマだ。

 呪いが簡単にかけられるわけがない!

「あー……思い当たることはあるんだけど……」

 うーん。と、先輩がうなったところで、予鈴が。

「どうせ放課後、みんな一緒に仲良く説教だからそのときにでも」

 じゃ。と、先輩は俺たちの前から走り去った。

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