-6話

「それで、間島先輩は、どうやってその厄介な玖雅先生の目かいくぐって犯人を突き止めようと考えているんだ?」

「ノープラン!」

 即答かい。

「でも、まずは保健室へ行く!」

「ほぅ。ならば俺も共に行こう。犯人が誰なのか興味があるからな」

 俺は別に興味ないから帰ろうかな……

「何してるの弐方君。早く行くよー」

「いや、俺は」

 何で犯人探しなんてしなきゃいけないんだ。

 ただでさえ委員会なんて面倒なことをやらされて、帰る時間が遅くなっているのに……

 ……でも。


 興味があるとすれば、呪術だけ。


「君たちか……。病人がいるから、静かにするんだぞ」

 突然やって来た俺たちを、伍紙先生は追い返すことなく中に入れてくれた。

 ……結局ついてきてしまった。

「先生、一見さんの様子は」

「問題ない。今は眠っている」

 先生は、カーテンの閉じられたベッドのほうに目をやった。

「玖雅先生が呪いを彼女から取り出したんだよね」

 なぜか伍紙先生はそれを聞いて、顔をしかめた。

「まぁな……」

 何だろう、その反応は。

「一見さんの彼氏はここへ来たの?」

 図書室を出た後の他のメンバーはそそくさと帰っていたと思うが、あのチャラいだけの頼りない彼氏は保健室へ来ていてもおかしくない。

 ……と思ったが。

「いや、ここへ来たのは君たちだけだ」

 何だって?

「帰ったってこと!? 彼女が心配じゃないの!?」

 先輩が叫ぶように言うと、静かに。と、注意された。

「ごめんごめん……ビックリしちゃって。何てやつなの」

 さすがの俺も驚きだよ。

 彼女が危ない目にあったのに、自分はさっさと帰りやがったか。

「でも、臭うね」

 間島先輩の目が怪しく光る。

「臭うって……何がですか?」

「本当に二人はつき合っているのかな?」

 そう言われると……俺たちが勝手にそうだろうと思っているだけだから、違うのかもしれないけど……

「彼……名前何だっけ? 私、みんなが名前書いているとき頑張って覚えようと思ってガン見していたんだけど、忘れちゃった。見れば思い出すかもしないけど、紙渡しちゃったしなぁ……」

 頭を抱える先輩。

 すると、壱岐が「はい」と、手を挙げた。

「なら、俺に任せろ。――先生、一枚紙をくれないか」

 A4の真っ白の紙を先生からもらい、壱岐はそこに右手を置いた。

「写しだせ、我が記憶よ――」

 その言葉と共に、真っ白だった紙にじわじわと文字が表れ始めた。

 これは……さっき図書室でみんなに書かせたものだ。

「だから最後に書いたのか……」

 あのとき最後に名前を書いたのは、壱岐だった。

 特に意味はないと思っていたが、そんなことはなかった。

「その通りだ。最後に自分の名を書くときに、他の人たちのを記憶した」

 こいつも犯人突き止める気満々か。

「素晴らしい! 壱岐君!」

 先輩は小声で大げさに喜び、再現された名簿をのぞき込む。

「どれどれ……。あ! こいつだ! 松葉悠人!」

 二年B組。松葉悠人。

 ということは、一見さんも二年生か。

「あのめちゃケンカ腰だったのはこの子ね。更科さん」

 先輩……超見てるじゃねぇか……

「更科さんと一緒にいた、あの気の弱そうな子は、古市さん……。みんな二年生ね……」

 あと三人、名前があるが間島先輩曰く、それは三年生と二年生の先輩と後輩の組み合わせとのことだった。

 あの場にいた一年は俺と壱岐だけのようだ。

「同じ学年なら……何か繋がりがあるかもしれないね?」

 可能性はあるかもしれない。

「君たち、探偵ごっこを楽しんでいるところに水を差すようで悪いが、ここら辺りで引き上げたほうがいいと思うぞ」

 ひょいと、先生が俺たちから用紙を取り上げた。

「あ!」と、壱岐と先輩は声を上げる。

「あとは大人に任せなさい。危険な目にあっても先生たちは責任とれないからね。さぁ、そろそろ帰りなさい。日も暮れてきた」

 病人がいるところにいつまでもいるわけにいかない。

 ……仕方ない。

 俺たちは大人しく、保健室を出た。

「……私、犯人突き止めるまでやめないから」

 外に出るなり間島先輩はそんなことを言い出した。

 ……マジか……

「俺ももちろんそのつもりだ」

 こいつもマジか。

「よし! じゃあ私、あの二年生たちが何か隠してないか聞き込みしてくる!」

「聞き込みって……誰に……?」

「言ったでしょ。私、色んな部活の助っ人してるって。そのくらい朝飯前だよ」

 聞き込みって、刑事かよ。

「ていうか先輩……やっぱりあの更科って女子を疑ってるんですか?」

 ヒステリックだからと言って、犯人とは限らない。

 自分とちょっと言い合いしたからって、決めつけるのはいかがなものか。

「弐方君の言いたいことはわかるよ。でもね、私見ちゃったのよ」

「何を……?」

 先輩の表情は真剣だった。

「玖雅先生が、呪いを自分に移したって言ったとき……あの二人すごく青ざめてた」

「更科さんだけでなく、古市さんもか」

 壱岐の問いに彼女は頷いた。

「呪いを自分で抱え込むなんて普通に考えて恐ろしいことだけど、そういう恐怖に青ざめてたんじゃないと思うんだよね。みんな驚いていたけど、二人の反応は違った」

 ……よく見てるな……

「なるほど。調べる必要がありそうだな」

「任せて! 何かわかれば報告するから!」

 そう言って、先輩は早速どこかへ行ってしまった。

 行動が早いな。

「今のを聞いて思ったんだが」

 隣で壱岐がボソッと口を開いた。

「玖雅先生はわざとあんなことを言ったのかもしれんな」

「あんなこと?」

「呪いを自分に移したって話だ。誤魔化せばいいものの、あんなことを言うなんて……恐怖心を煽るだけじゃないか」

 言われてみれば……

 ということは、だ。

「俺たちがどういう反応を示すのか……試すために言ったってことか?」

「そうなんじゃないかと思う。先輩が言ったように、違う反応をした人がいるというなら、先生の作戦は成功だな」

 ……担任は最初から、犯人探し目的で図書室へやって来たと。

 ――うーん。なーんか嫌な予感がするぞ。

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