-5話

「先生……もう帰っていいでしょう? そこの人に言われて、名前まで書かされたんだから」

 ヒス女が間島先輩を指さして言った。

 先輩は、人に向かって指をさすなんて失礼な! と、怒っている。

「名前?」

「これ。事件が起きたとき、この場にいた全員の名前とクラスを書いてもらったんだ」

 先輩は先生に用紙を渡した。

「そりゃご苦労。だが、知りたがりもほどほどにしろよ。間島美和子」

「……あは。バレてた?」

 ペロッと先輩は舌を出して笑った。

「ここの片づけは俺がやる。今日はもういいぞ。近々呼び出すことになると思うがな」

 意味ありげなことを言って、先生は俺たちを図書室から追い出した。


「面倒なことに巻き込まれたな……」

 図書室を出て、俺は壱岐の隣でため息をついた。

 俺より身長の低い壱岐は、俺の顔を少し見上げただけだった。

「ねぇ、どうして呪いだってわかったの?」

 そんな俺たちに、間島先輩が近寄ってきた。

 先輩もわかっていなかったのか!

「いや……何となく……。壱岐だって、一見さんに死んでほしいみたいだなって言ってたし、そうなのかなって……」

 俺はもごもごと答えた。

「そういや君……そんなこと言っていたね。君も呪いだって気づいていたの?」

「確証はなかったが。あれだけ苦しんでいる上に、図書室に閉じこめられたんだ。一見さんの全身に呪いが行き渡るようにするための時間稼ぎとしか思えんよ」

 そうそう。俺もそんな感じのことが言いたかった。

「なるほどねぇ」

 先輩は腕を組んで大きく頷いた。

「で、君は弐方君の友だち?」

 今ここでそれを聞くか。

「同じクラスなだけです」

「いかにも。俺の名は壱岐佳一。弐方君のクラスメイトで、図書室へはたまたま本を借りに来ていた。あなたは?」

「私は三年の間島美和子。弐方君の図書委員の先輩だよ」

 こうして二人は自己紹介を互いに交わしたのだった。

「ところで間島先輩。玖雅先生のあれはどういう意味なんだ?」

 そういや知りたがりもほどほどにしろって言われていたな。

「あれね……」

 先輩は照れくさそうに笑う。

「私、実はあちこちの部活で助っ人をやっていてるんだよね」

「えっ?」

 助っ人?

「色んな部活に顔出してるせいで、その分学校内の情報も沢山耳にするっていうか……。知りたがりなのは本当なんだけど、あんまり先生にはよく思われてないみたいだね」

 先輩がその得た情報をどうしているのかは知らないが、先生に目をつけられているようだ。

 知りたがりな性格なのは納得してしまった。

「厄介だね、玖雅先生。私、この事件の犯人が誰なのか気になるのに、先生がいるせいで自由に動けないかも」

 ……この人、自分で調べる気だったのか。

「玖雅先生は厄介な存在なのか」

「まぁね。私の行動なんてお見通しかも。あの感じだと君たちの担任?」

俺と壱岐は頷く。

「なら聞いたことあるんじゃない。先生のこと」

「……魔女とか何とか言うやつですか」

 噂ならとっくに耳に入ってきている。

 この世界に魔女なるものが存在しているのは知っているが、実際に目にしたことはなかった。

 魔女なんだからてっきり女だとばかり思っていたが、先生はどう見たって男だ。

 よくわからない噂だと思っていた。

「そのうち授業で説明されると思うから、詳しいことは言わないけど……呪術を対処できたりするのは、先生が魔女だからだよ」

 いまいち理解し難い……

「この学校で一番最強の魔女は、玖雅先生。私から言えるのはそのくらいかな」

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