-3話

 机と椅子が並ぶ閲覧コーナーで、一人の女子が腹を押さえ、もがき苦しんでいた。

「苦しい! 助けてぇ……!」

「おい、どうしちゃったんだよ! すみれ!」

 傍でチャラそうな男があわてふためいている。

 女子はうめき声をあげるだけだ。

「何事だ」

 騒然としている場に、伍紙先生が現れた。

 そうだ! たまたま保健室の先生がここにいたんだった!

「どうした。何があった?」

 生徒の異変に気づき、すぐさま駆け寄る先生。

「わ、わかんない。急にお腹が痛いって言い出して……」

 男は何が何だかといった様子で、彼女の代わりに答えた。

 こいつは……この苦しんでいる女子の彼氏なのだろうか。

「この子の名前は」

「ひ、一見ひとみです」

「一見さん、立てるか? 保健室へ行こう」

 先生の呼びかけに、彼女――一見さんは「ああああ!」と叫ぶだけで、返事もろくにできない。

 相当苦しいらしい。

 どう見たって、異常な光景だ。

「一見さん、先生の声が聞こえるか?」

「苦しい……! 死ぬ……!」

 彼女は床に倒れ、のたうち回る。

 冷や汗がすごい。

 見ているこっちまで苦しくなってくる。

「……これは……」

 先生がボソッとつぶやく。

 きっと、先生も俺と同じことを思っているに違いない。

 ――これは、呪術だ。

一見さんは体調不良なんかではない。

 何者かによって、“呪い”をかけられた。

 それも痛みを伴う、呪い。

 放っておけば死に至るだろう。

「……先生、どうするんだ?」

 俺には関係のないことだが、自然とそう尋ねていた。

「……ひとまずはここを出よう。悪いが扉を開けてくれるか」

「わ、わかった!」

 間島先輩がすぐさま入り口へ向かって駆け出した。

「君、彼女を押さえてくれないか」

 彼氏と判断した上で、先生は男に指示を出す。

 男は言われた通りに、彼女を押さえにかかる。

 だが、思った以上に一見さんは暴れており、なかなか上手くいかない。

 チャラいだけで何の役にも立たないと、俺は見た。

 情けねぇ。

 仕方ないので、俺が手を貸すことにした。

 知らない女子に容易に触れるのは少し抵抗があったが、言っている場合ではない。

 俺が右腕をつかみ、肩を床に押さえつけると、やつも同じようにした。

彼女は叫び、バタバタともがくが、力ずくで何とか押さえる。

 先生! 早く!

 俺が目で訴えると、先生は彼女の額に人差し指を当てた。

 徐々に、徐々に。

 一見さんの動きが落ち着いていった。

 最終的にはぐったりとした様子で、気を失った。

 これであとは、保健室に――……

「だから! 何も知らないって言ってるでしょ!?」

 一段落ついたと思ったら、今度は入り口のほうから女子のヒステリックな声が聞こえてきた――。

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