-2話
ヘイヘイ、好きにやってください。
どうせ俺は、ここでじっと座っているだけですよ……
「これ、お願いします」
そんなやさぐれた俺の前に、一冊の本が置かれる。
あー、はいはい。貸出ね……
デジタル社会のこの世に、未だ貸出カードなんてものを使っているのは、この学校くらいなのではないだろうか。
「……あ」
預かった貸出カードに書かれた名を見て、思わず声が出た。
一年B組 壱岐佳一
見覚えのある名。
それもそうだ。
一年B組は俺が所属しているクラスだし、それに、こいつは――
「……何か?」
「あ、いや」
何かって何だ。
クラスメイトの顔も覚えてねぇのかよ、こいつ。
「俺、同じクラスなんだけど」
自分で言うのは何だか恥ずかしいが、スルーするのも嫌で、ついそう言ってしまった。
向こうもようやっと気づいたようで、「あ!」という顔になった。
「ジャンケンで一人負けした、弐方君!」
「覚えててくれて嬉しいぜ……委員長……」
なんつー覚え方してくれてんだ。
「すまない。気がつかなかった。あと、委員長はやめてくれないか」
そう、この壱岐佳一というクラスメイトは、一年B組の学級委員長なのだ。
さっき間島先輩が言っていたように、皆黙ってうつむいて手を挙げないから、誰もやらないなら自分がやるといった感じに名乗り出たやつでもある。
……こいつ、顔はいいから女子たちはもう目を付けており、副委員長の座だけは取り合いになっていた。
「俺もやるなら図書委員がよかったのだが……」
思わぬ本音を漏らす、壱岐。
あ、マジで?
ぜひとも替わってほしいくらいだ。
「ああなってしまっては、仕方ないからな……。委員長をやるに相応しい人は他にもいただろうに……」
「みんな面倒なんだろ」
きっとこいつだって、そう思っているに違いない。
「面倒……か。やりがいはあると思うぞ」
いや……ねぇだろ。
厄介事が起きれば全部押しつけられる。
それが、学級委員長だと俺は思っている。
……ちょっとこいつ、変わっているな?
「壱岐は、本を読むのが好きなのか?」
「ん? ああ……好きだが……」
「……?」
言葉を濁したのが気になる。
何だ?
「――おい! どうしたんだよ、すみれ!」
そのときだった。
静かな図書室で、そんな声が響き渡ったのは。
「どうかしたんだろうか……」
「さぁ……」
互いに顔を見合わせつつ、声がしたほうへ俺たちは向かった。
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